夜風にあたりながら税理士先生との座組に悩む。そうこうしているうちに税理士先生来店
店を出て、夜風に当たった瞬間に、博子はスマホを握り直した。
さっきアルカちゃんとは話せた。さきちゃんにも言えた。ひとまず、そこは進んだ。
でも、もう一個だけ“今週の爆弾”が残ってる。
税理士先生。保険会社の人とセットで、座組を回したいって話。
正直、今の博子には土日がパンパンすぎる。東京案件で頭も体も持っていかれる。
だからやるなら金曜日。…けど金曜日も、もう同伴で埋まってる。どう詰める。
どう落とす。どう壊さずに回す。
博子は歩きながら、頭の中で線を引き直す。
(座組って、増やしたら勝ちちゃう。増えた瞬間に“雑”になったら終わりや。
せやけど、税理士先生は……雑に扱いたくないタイプや。)
ちゃんと理解してくれる。しかも、保険会社の人を連れてくるってことは、
“外に繋がる”可能性もある。ただし、今それを受ける余裕があるかは別問題。
博子はため息をひとつ飲み込んで、店に戻った。
フリーの卓に座った瞬間、いつもの音が戻ってくる。
グラスの触れる音。黒服の声。誰かの笑い声。この空気は、落ち着くのに落ち着かない。
「……よし。」
ヒロコは一度だけ深呼吸して、奥の方へ歩いた。
奥の卓に戻って、さきちゃんとアルカちゃんに軽く目配せしてから言う。
「なあ、もう一個だけ。明日のお茶で話したいことある。」
さきちゃんが「まだあんの?」って笑う。
アルカちゃんは察した顔をする。
「税理士先生の件やろ?」
博子は頷いた。
「そう。ゼリ先生がな、保険会社の人と一緒に“座組回したい”言うてるねん。
ほんまはゆっくり詰めたい。でも土日が東京でいっぱいいっぱいやから、
やるなら金曜日しかない。」
さきちゃんが眉を寄せる。
「金曜日も埋まってるやろ?」
「埋まってる。同伴は埋まってる。せやから、どう組むか、どう断り方まで含めて、
明日一回整理したい。」
アルカちゃんが頷く。
「了解。明日まとめよ。税理士先生って、変に急かしてくるタイプちゃうし、
ちゃんと説明したら分かるやろ。」
「うん。けど、保険会社の人が一緒ってなると、税理士先生も“形”作りたがるやろ。
そこはこっちのペースに落とし込まなあかん。」
さきちゃんが口を挟む。
「それ、先に根回ししといた方がええんちゃう?“金曜は厳しいかもしれん、
でも枠は考える”って。」
「せやねん。だから、先に一回だけ税理士先生に“今の状況”を軽く投げといた。」
そこで博子は、少しだけ笑う。今夜、税理士先生が来てる。しかも、いつもの卓に着いてる。
(…先に根回ししておいて良かったわ。)
黒服に案内されて、博子は税理士先生のタクへ向かう。
歩きながら、もう一回頭の中で言葉を整える。
“嬉しい”は言う。“無理”も言う。でも“断る”にしない。“優先順位”と“品質”の話に落とす。
卓の前で、税理士先生がこっちを見て笑った。
「お、博子ちゃん。久しぶりやな。」
隣に座ってる保険会社の人も、軽く会釈する。
「こんばんは。今日はよろしくお願いします。」
博子は営業スマイルを作る。でも内心は、ちゃんと線を引く準備をしている。
「お久しぶりです。来てくれてありがとうございます。…聞きましたよ。座組、やりたいって。」
税理士先生がニヤッとする。
「せや。せっかくやしな。保険会社のこいつが“行きたい”言うてるし。」
博子は一瞬だけ、さきちゃんとアルカちゃんの顔を思い浮かべた。
そして、落ち着いた声で言う。
「嬉しいです。ただ、今週末が東京案件でパンパンで。土日は完全に埋まってるんです。」
保険会社の人が「そんなに?」って驚く。
税理士先生は面白がる顔をする。
「噂ほんまやな。」
博子は笑って頷く。
「ほんまです。だから、もし動かすなら金曜日かなって思ってたんですけど、
金曜日も結構詰まってて。無理に入れて雑になるぐらいやったら、ちゃんと組める日に
回したいんです。」
税理士先生が腕を組んで言う。
「なるほど。“雑に回すぐらいやったらやらん方がええ”ってやつやな。」
博子はその言葉に、少しだけ救われた。
「そうです。先生って、そこ分かってくれるじゃないですか。」
税理士先生は笑う。
「分かる分かる。せやから来てるんやし。」
博子はそこで、少しだけ前に出る。
「明日、さきちゃんとアルカちゃんとも整理するんで、金曜にやるなら“軽め”の形にするか、
もしくは来週以降に“ちゃんとした座組”で組むか、どっちがいいか、選ばせてください。」
保険会社の人が「ちゃんとした座組って何ですか?」と食いつく。
税理士先生も興味深そうに目を細める。
博子は、そこで鉄板コースの名前は出さずに、少しだけ“ちら見せ”する。
「観光地の真ん中じゃなくて、ちょっと外側。混んでないのに空気がいい場所。
そこで“気づき”が起きる流れを作る感じです。」
税理士先生が「それそれ」と頷いた。
「ほな、明日決めよ。金曜軽めでもええし、来週以降でしっかりでもええ。
どっちにせよ、博子ちゃんの体が先や。」
博子は、心の中で小さくガッツポーズをした。根回し、効いてる。
「ありがとうございます。じゃあ今日は、普通にゆっくり飲みましょう。
“相談”は明日、ちゃんと詰めます。」
税理士先生が笑ってグラスを上げた。
「ええやん。ほな、今日は“下準備の夜”やな。」
博子は笑って、席に着いた。
やっと、ひとつずつ、崩さずに回せそうな気がしてきた。




