店に来てなお博子のコンサルをするおじいちゃん。博子の成長えぐくて持ってくる話が面白い(笑)
店に入った瞬間、空気がスッと変わった。
黒服の声、氷の音、遠くの笑い声。――いつもの夜の匂い。
おじいちゃんは席に腰を下ろすなり、グラスを見てふっと笑った。
「ほんま、博子。最初に拾った時と比べたら、成長えぐいな。」
「また急に褒めるやん。」
「褒めてるんや。面白いねん。持ってくる話が、奇抜というか……東京のやつら、
あれ刺さるんかもしれんけど、聞いてて飽きひんわ。」
博子は照れ隠しみたいに肩をすくめた。
でも内心は、ちょっと救われた気がした。自分がやってることが“変”やなくて、
“武器”やって言ってもらえたみたいで。
おじいちゃんが続ける。
「ただな。気になってんのは、女の子二人の絡み方や。」
博子の顔が一瞬だけ真面目になる。そこは、今いちばんの課題やった。
「確かにな……。」
博子は氷を軽く回しながら言葉を選んだ。
「今の形って、男の社長三人が来て、私が真ん中で“意味”を話すやろ。それ自体は
“コンサル”として成立する。けど、そこでアルカちゃんとさきちゃんが“正答”を出す役になるのは、
意味わからんねん。」
おじいちゃんが頷く。
「せやろ。下手したら“先生と生徒”になる。女の子の自尊心、傷つくで。」
「うん。そこが怖い。だって私ら、和洋中みたいなもんで。最低ラインの“かわいさ”とか“接客”は、
みんな担保されてる。たまたま私の刺さり方が今の東京勢に合ってるだけで、
別の日には二人が刺さる可能性だってある。」
おじいちゃんは、口の端を上げる。
「そこ、言語化できてる時点で、お前は賢いわ。」
博子は少しだけ笑って、でもすぐ顔を戻した。
「だから“まとめ方”が大事なんよ。『この事例はこう』みたいに、
私が全部答えを言うんやなくて、“質問の形”にして、二人の言葉が前に出るようにせなあかん。
たとえば――」
博子は指で空中に線を引く。
「『東京の社長が“雑さ”に飽きた時、何を欲しがるか?』って問いにして、
アルカちゃんには“体験”の話をしてもらう。さきちゃんには“距離感”とか“空気の作り方”を
言ってもらう。私は最後に“まとめる”。」
おじいちゃんが「ほう」とだけ言う。
博子は続けた。
「それを店の中で“反省会”っぽくやる。“講義”にせんと、“打ち合わせ”に寄せる。
二人が答えるっていうより、『これ、どう感じた?』って振って、私が拾う。」
「チューニングやな。」
「そう。思いついた時点ではまだ形だけやから。やりながら調整していくしかないと思ってる。」
おじいちゃんは、グラスを置いて少し声を落とした。
「な、博子。お前が突き抜けて、中に味方おらんようになったら――めんどくさいぞ。」
博子は黙って頷いた。分かってる。痛いほど。
おじいちゃんが続ける。
「“コンサル”って看板、外にかけたら怪しい。今の社長くらいしか、ちゃんと金出して
理解してくれるやつおらんやろ。せやのに、もしその社長が飽きたら……終わるで。」
博子の喉が、少しだけ鳴った。
「……うん。」
「せやから、長続きさせるコツはな。“味方を立てる”ことや。
アルカちゃんとさきちゃんを立てる。黒服も立てる。店も立てる。
お前一人で勝たんでええ。三人で勝て。」
その言葉が、胸にスッと入った。刺すんやなくて、支える方向の言葉。
――それが、今の博子には要った。
「おじいちゃん、やっぱり見てきた数が違うな。」
「長いこと遊んでるだけや。」
おじいちゃんは笑って、でも目だけは真面目やった。
「でも俺が長いこと見てても、博子みたいに“コンサルで殴る”やつ、見たことないわ。
この先、どう化けるか気になる。」
博子は、少しだけ背筋を伸ばした。
「……今週も来ます。東京の“イキリ社長”が、社長二人連れて。」
おじいちゃんが笑う。
「ほらな。もう始まってるやん。」
「始まってます。だから大変です。」
そう言いながらも、博子の口元はほんの少しだけ上がっていた。
怖い。でも、面白い。その両方が同時に来てる夜やった。
グラスの氷が、また小さく鳴った。




