博子がおじいちゃんの解決策をさらに練りこむ。コンサル枠と他の女の子を巻き込む
焼肉の網が最後にパチッと鳴って、脂の匂いが一段だけ甘くなる。
博子は箸を置いて、グラスの水を一口飲んだ。
「……おじいちゃん、今の話。ようわかったわ。」
おじいちゃんが「ほう」とだけ返す。
ヒロコは、そのまま言葉をつないだ。頭の中で組み立てた“線”を、
口に出しながら確かめるみたいに。
「線引きする。枠作る。品書きに“ルール”を入れる。それはもうやる。
ほんで、その上で……もう一個や。」
「まだあるんか。」
「ある。月一で三人が来るとしても、刺さり方に差が出るやん。私にドハマりの社長は、
どうしたって私に寄ってまう。それを“抑える”んやなくて、“設計で逃がす”って考えたら、
こういう形どうかなって。」
おじいちゃんが、肉の最後の一枚をゆっくり噛んで、目だけで続きを促す。
「まず最初の二時間。私がずっと横におるんやなくて、最初は別の女の子についてもらう。
アルカちゃんかさきちゃん。で、私は“場を整える側”に回る。最初から全部を私で取りにいかへん。」
おじいちゃんが鼻で笑う。
「いきなり主役にせん、ってことやな。」
「そう。ほんで、最後の二セットは“合流”させる。三人で一緒に座って、
そこで私が“解説”を入れる。」
「解説?」
博子は頷く。そこが今日いちばん言いたかったところやった。
「そう。鉄板コースの中身は外では言わん。けど店の中でなら、“考え方”としては話せる。
“ずらし”とか、“余白”とか、“東京のヒエラルキーの外側”の話とか。
それを、社長に向けて話すんやなくて――“三人に向けて”話す感じ。
『この前のあれ、こういう意図やったんですよ』って。」
おじいちゃんが笑った。
「講義やな。」
「講義っていうほど偉そうにはせんけど、でも“料金”は分ける。ここが肝やねん。」
おじいちゃんの眉が少し上がる。博子はわざと軽く言うた。
「銀座で一時間10万払う人らやろ。
なら、店の中で一時間、二時間、“気づきの話”をするんやったら、別料金でもええんちゃうかって。
『飲み代とは別で、コンサル枠です』って。」
おじいちゃんが、わずかに顎を引く。
それは「値段を言え」じゃなくて、「筋が通ってるか」を見る顔や。
「ほう。飲ませて終わりやない。“納得の領収書”を作るわけやな。」
「そう。で、そうやって“私だけ突き抜けてる”状態を、店の中で中和できる。
女の子二人もその場で聞けるし、社長らも“比較”やなくて“共有”になる。
『博子だけの秘密』やなくて、『三人で聞いた話』にできる。」
おじいちゃんが頷く。
「それ、なおさら良いな。平均点を上げるって、外の座組でやろうとしたら
手間もリスクもでかい。でも店の中なら、コントロール効く。しかも“熱量”を落とさずに済む。」
博子は、胸の奥が少し軽くなるのを感じた。“下げる”んやなくて、“別の場所で回す”。
その発想が、今の自分には要る。
「ほんで次の日。朝は社長らは朝ごはん食べて、昼は女の子たちと別行動。
もし合わんかったら、そこでシャッフル……トレードでもええ。別に私が全部を背負わんでも、
回る形にする。」
おじいちゃんが笑う。
「お前、ほんまに“座組”で生きとるな。」
「生きてますわ。でも現実の話、熱量で来てる社長を下げたら離れる可能性もある。
せやから“熱量はそのまま”、だけど“場を変える”っていうのがええと思う。」
おじいちゃんは、肉の残りを食べ切って、紙ナプキンで口を拭いた。
「ええやろ。ただし、二つだけ守れ。」
「なに?」
「一つ。“別料金”は、曖昧にするな。なんとなくの雰囲気でやったら、揉める。
最初にルールとして出せ。『今日はここから先はコンサル枠』ってな。」
「……うん。」
「二つ。女の子二人の顔を立てろ。講義になりすぎたら、あの子らが“生徒”になる。
“同じチームの話し合い”にしろ。質問も拾って、二人の強みも言葉にしてやれ。」
博子は少しだけ背筋を伸ばした。
「……それ、できる。私もその形の方が、しんどくない気がする。」
おじいちゃんが立ち上がる。
「ほな決まりや。腹も八分やし、風呂敷も広げた。店行こか。」
博子も立って、バッグを持った。焼肉の店を出ると、夜の熱気がまだ残ってる。
でもさっきまでの煙の中より、外の空気の方が軽かった。
タクシーを拾いながら、博子は小さく笑った。
「……ほんま、私、どこまで仕事持ち込んでんねん。」
おじいちゃんが横で笑う。
「持ち込むんやない。“お前の遊び方”がもう仕事なんや。」
タクシーが止まる。ドアが開いて、ふわっと冷たい空気が流れ込んだ。
「ほな、次は店の空気やな。」
博子は頷いて、夜の方へ身体を預けた。




