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同伴後半戦。東京3人組のうちメイン社長が抜け駆け。効果てきめんでどはまり。困惑におじいちゃんが解決策。線を引け、お品書きで運用ルールや

焼肉の煙が、ふわっと半個室に溜まっていく。

塩タンの次、赤身を焼きながら、博子はハイボールを一口飲んで、

ようやく腹をくくったみたいに言った。

「……土日な。東京の社長さん、抜けがけで来はったんですわ。」

おじいちゃんが肉を返しながら、目だけで「続け」と合図する。

「元々は三人組やったんです。チームで来るやつ。

でも、鉄板コースでドハマりしてから、もう一人で来た。」

「ほう。やっぱり“刺さり方”が違うんやな。」

「そう。で、土曜は大阪で“別の刺し方”したんです。天満の、あの……一合3円の看板とか、

マグロ3円とか、ハイボール50円とか。実際に行くわけじゃなくて、空気だけ見せるやつ。

あの雑多な通りの圧を、まず当てた。」

おじいちゃんが小さく笑う。

「東京の真ん中で働いとったら、あの世界は見えへんやろな。」

「ほんまそれです。社長、目ぇ丸くしてました。“何この世界”って。驚かせてから、

芋焼酎と鶏の店に入れて、芋の説明もして、鶏刺しも炭火焼も食べてもらって。

値段も空気も、全部が“ズラし”で刺さって、めちゃ満足して帰りました。」

「ほらな。驚きは入口や。で、うまいもんで腹落ちさせる。筋が通っとる。」

博子は笑ったけど、すぐ顔が戻った。

「……問題は、その“抜けがけ”がバレかけたことなんですよ。」

おじいちゃんが箸を止める。

「友達二人か。」

「そう。置いてきた社長二人が、勘ぐり始めたんです。“なんであいつ最近つれないねん”って。

それで、私のとこの女の子――アルカちゃんとさきちゃんに、探り入れだして。

『鉄板コースって何?』『なんであいつだけ変わった?』って。

変な空気が店の外側で出始めたんです。」

おじいちゃんが鼻で笑う。

「男の嫉妬はみっともないな。」

「みっともないけど、放っといたら火種になるやつです。

だから、その土曜の夜、最後に女の子二人も三セット目に入れて、

“みんなで喋る場”を一回作ったんです。鉄板コースを女の子にも体験させて考え方は共有して、

『今度三人で来る時作ってください。みんなで座組やりますから』って空気に戻した。」

おじいちゃんが頷く。

「それが“チーム戦”の運びや。ええ処理やな。」

「でも、次が日曜で……。社長、朝から京都行きたいって言い出して。北山のブリアンでモーニング、

植物園、千円のワンプレート、最後にホテルのラウンジで紅茶。朝から昼まで、ぎゅっと詰めました。」

「お前、よう体力もつな。」

「持ってないです。気合いです。」

そう言って博子は笑った。おじいちゃんは、焼けた肉を口に入れてから言う。

「で、いくらや。」

「社長の自己採点が55。私は“次に使ってください”って言って5万返して、50にしたんです。

それで、申し訳程度に質問投げた。奨学金返済の肩代わり、就労不能の団体保険の話。

…そしたら社長、火曜に電話してきて、ほんまに会社で動かし始めたんです。」

おじいちゃんの眉が上がる。

「動いたんか。早いな。」

「早い。お菓子会も続けてるし、仮眠室も検討してる。で、部下がざっくり試算したら、

採用・離職コストとか含めて、年間数千万単位で“損失回避”できそうやって。

社長、それ聞いてさらに刺さって、『払った50が安かった』って言いながら、ありがとう電話です。」

おじいちゃんが笑う。

「そらドハマりするわ。遊びの話や思うてたら、会社が得しとるんやからな。」

博子はハイボールを置いて、少し真面目な声になる。

「……でも、その“ドハマり”が、また怖いんですよ。社長が私に偏れば偏るほど、

アルカちゃんとさきちゃんの社長との関係が、微妙になっていく。

最初はチーム戦やったからバランス保てたけど、一人だけ突き抜けたら、結局、崩れる。」

おじいちゃんがゆっくり言う。

「崩れるのは、関係か。チームか。お前の体か。」

「全部です。しかも、この話を他の社長にしたら、今度は“俺も”ってなる。

男三人が私一人に群がる構図、意味わからんでしょ。店の中でも空気悪なるし、

女の子もやりにくい。でも、断り続けたら機会も逃げるし……。」

おじいちゃんは、肉を一枚焼いてから、博子の皿に置いた。

それが“話は聞いとる”の合図みたいで、博子は少し落ち着く。

「で?聞きたいのは、どこや。」

「……おじいちゃんやったら、どう線引きします?“刺さりすぎる客”を、どう扱うか。

チームを守りながら、私も守りながら、売上も落とさないやり方。」

おじいちゃんは少し考えて、笑った。

「答えは簡単や。“席”を分けろ。“ルール”を作れ。それを“品書き”として出せ。」

博子が目を丸くする。

「品書き……。」

「そうや。お前の強みは、流れを作れることやろ。なら、流れの中に“制限”を入れたらええ。

・月に一回は三人で来てもらう日を作る

・個別は月一まで

・外は朝昼だけ、夜は店

そういうの、全部“設計”や。」

博子が息を吐く。

「……なるほど。断るんじゃなくて、枠を作るんか。」

「せや。相手に“選ばせる”形にしたら、角も立たん。“お前が大事にしたいもの”を先に置け。

チーム、体、店。順番や。」博子は焼肉の煙の向こうで、おじいちゃんの顔を見た。

この人、やっぱり経験で喋ってる。言葉が軽いのに、芯だけは重い。

「……ありがとうございます。ちょっと、枠作ります。品書きに“線”入れます。」

おじいちゃんが頷く。

「それでええ。あと、もう一個。お前が一人で背負うな。

黒服にも、女の子にも、話せ。“支える側”を増やすのも、設計や。」

博子は笑って、グラスを上げた。

「……ほんま、今日焼肉にして正解やったわ。」

「せやろ。肉は嘘つかん。」

二人のグラスが軽く当たって、煙の中で小さく音が鳴った。

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