金曜日。完璧な立ち回り。女の子も喜ぶ。黒服も時給UPと出勤増やす話してくる
結局その夜は、アルカちゃん、サキちゃんを本指名に切り替えてもらったうえで、
30分の延長。終電の時間もあるということで、無理に引っ張らず、
きれいなところでお開きになった。税理士先生は終始ご機嫌だった。
「今日はほんまに良かったわ」そう言いながら、ゆっくりコートを羽織る。
せかされることもなく、煽られることもなく、
ただ会話の流れで酒を飲み、笑い、話せたことがよほど心地よかったのだろう。
一緒に来ていた保険会社の二人も、それぞれ満足そうだった。
特に一人は、すっかりアルカちゃんを気に入った様子で、「連絡ちょうだいね」
そう言って名刺を渡しながら、少し照れたように笑っていた。
場が解散し、三人が帰った後。フロアの奥、少し照明を落とした卓に、
博子、アルカちゃん、サキちゃんの三人が集まる。
「いや、ほんまナイスパスやったで」
最初に口を開いたのは、サキちゃんだった。
「場内のときの声かけもやし、場内から本指名に
切り替えるときの言い方、あれ完璧やった」
アルカちゃんも大きくうなずく。
「ほんまに助かった。あの人、たぶんあと1回か2回来てくれそうやし、
うまくいったら同伴も全然いけると思う」
そう言って、少し安心したように息を吐いた。
博子は笑って首を振る。「いやいや、私が取ったっていうより、
二人がちゃんと空気読んでくれたからやで」
でも、心の中では小さくガッツポーズをしていた。
“一人で売る”んじゃない。“場を回して、全員が得する形を作る”。
それができた夜だった。少しして、黒服に呼ばれる。
「今日の動き、めちゃくちゃ良かったで」
開口一番、そう言われた。「シャンパン煽らずに、
延長取って、本指名に切り替えて、しかもアルカとサキにも花持たせたやろ。
あれ、チームプレーとしては最高や」
博子は軽く頭を下げる。「ありがとうございます」
黒服は続ける。「せやからな、時給、
来週から3,000円じゃなくて3,500円にするわ」
一瞬、広子の頭が追いつかなかった。
「あと、出勤な。土曜日も出てええ。
来週から週3やったけど、週4にしよ。
はシフト、多めで入れてええから」胸の奥がじんと熱くなる。
「ありがとうございます。もっと頑張ります」
黒服は笑いながら、少し冗談めかして言う。
「この流れ、常に出せるようになったら、ナンバーも夢ちゃうで。
ミス減ったら、もっと数字伸びると思うわ」
——ついこの前まで、「出勤減らそうか」
「正直、厳しいかもな」そんな話をしていたのは誰だったか。
内心では呆れながらも、博子は表情を崩さず、
「ありがとうございます」とだけ返した。
店を出るころ、金曜日の夜気が少し冷たく感じた。
でも、不思議と足取りは軽い。シャンパンを下ろさなくても、
無理に煽らなくても、人を動かし、場を回し、
次につなげることはできる。
今日は、ちゃんと“仕事”をした夜だった。




