表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

428/770

東京メイン社長。お菓子会の後、部下にそれぞれの簡易見積もりを報告もらう。年間軽く1,000万は効果あるっす

お菓子会が終わって、紙皿と空になった箱が片付けられていく。

社長は椅子にもたれて、さっきのメモを指でトントン叩いた。

「……ま、ええ話なのは分かった。でも俺、数字見たいわ。ざっくりでええから。」

部下が「ですよね」と笑って、ノートを開く。

社長は続ける。

「売上はみんなで頑張ろう、は変わらん。

でも“マイナスのコスト減らす”って、俺あんま真面目に考えてなかったなって今思った。」

言いながら、ふっと表情が落ちる。

「辞めていったやつにも、正直、悪いことしたと思う。

メンタル病んだやつも、人数で言うたら数人とか、いて十人とかやろうけど、

本人らにとってはそれが全部やしな。」

部下たちが黙る。

社長はそこで、少しだけ自嘲気味に笑った。

「責任全部は取れんかもしれん。けど、やれることは試行する。

で、仮眠室とかもな、1時間2時間“サボった”ところで、数字出たらええやんって最近思う。

テンション変わるなら、そっちの方がよっぽど得やろ。」

部下が頷いて、ペンを走らせる。

「じゃあ、ざっくり試算の置き方ですけど――まず“辞められるコスト”からいきます。」

社長が「頼む」と短く言う。

部下は数字を並べる。

「さっき言うてた通り、エージェント経由の採用コストは年収の3割。

新人年収400万なら、1人あたり120万。ここは確定で出ます。」

「うん。」

「で、辞めると“採用費”だけじゃなくて、育成の人件費、引き継ぎ、プロジェクト遅延、

周りの士気の低下が乗ります。ここは会社によって違うんですけど、

雑に“採用費+追加100〜200万”で見ると、1人辞める損失がざっくり220〜320万ぐらいになります。」

社長が眉を上げる。

「そんな行くか。」

「行きます。むしろ軽めに見積もってます。

で、社長の感覚で“3年で3割”って言うてましたよね。」

「うん。入って3年で3割は、まあ普通にある。」

「仮に社員300人の会社で、毎年新卒・中途合わせて30人入れてるとして、3年で3割辞めるなら、

年換算でだいたい同年代で3人×3年で9人前後が“早期離職”で抜けてるイメージになります。」

社長は口をすぼめる。

「9人か。数字にしたら少ないけど、でも痛いな。」

部下が頷く。

「で、もし施策で“辞めるやつが2〜3人減る”だけで――2人減ったら、

2×(220〜320万)=440〜640万。3人減ったら、660〜960万。

ざっくり年間で“数百万〜1000万弱”は現実的です。」

社長が息を吐く。

「……年間1000万は硬い、って言うてたの、こういう積み上げか。」

「はい。しかもこれは“見える損失”だけです。

採用が楽になったり、現場の空気がよくなって生産性が上がる分は入れてないです。」

社長は机を指で叩く。

「次。奨学金や。採用のしやすさ、どれぐらい変わる?」

部下は少し言い方を選びながら言う。

「“奨学金肩代わり”って、ぶっちゃけ縛りになります。でも、学生側から見たら

“安心の買い取り”なんですよ。月1.5万でも、固定費が減るってメンタルに効きますし、

応募理由になる。」

社長が頷く。

「なるほどな。」

「ここは試算が難しいんですけど、たとえば採用の母集団が増えて、

ミスマッチが減って、結果的に早期離職がさらに1人減るだけでも、さっきの計算で

年200〜300万相当です。あと、内定辞退の減少とかも地味に効きます。」

社長が言う。

「就労不能の団体保険は?」

部下が即答する。

「コストとしては“全員加入の最低ライン”にすると、1人月数百円〜千円台のレンジに

収まることが多いです。設計次第ですが。仮に月1000円×300人×12ヶ月なら、年360万。

これで休職トラブルの摩擦が減って、炎上リスクも抑えられるなら、

コストとしては許容範囲だと思います。」

社長は腕を組んで、少し笑った。

「……やっぱ“優しさ”じゃなくて、リスク管理やな。それで社内の空気もよくなるなら、

なおさら安い。」

部下が頷く。

「あと、仮眠室はほぼ設備費だけです。空き部屋使うなら初期数十万〜。

運用はルールだけ。“昼寝=悪”って空気が変わるだけでも、メンタル持ち直す人出ます。」

社長は、ふっと天井を見た。

「こういうのってさ。売上の“プラス”を取りに行くのばっか考えてたけど、

マイナスの穴塞ぐだけで、勝手に数字残るんやな。」

部下が笑う。

「そうっす。穴塞ぐの、めっちゃ効率いいです。」

社長は頷きながら、ふと別の顔になる。

あの大阪の博子。包んだ金以上のものを、平気で返してくる。

“気づき”を投げて、翌日には行動が変わってる。しかも、それを本人は大げさに言わない。

社長は小さく笑って、部下に言った。

「今週中に、数字まとめろ。“年間どれぐらい穴が塞げそうか”の表、一本でいい。

仮眠室・奨学金・保険、ざっくり3パターン。低・中・高。」

「了解です。」

社長は立ち上がって、最後にぽつり。

「……俺、遅いよな。気づくの。」

部下が一瞬止まって、軽く首を振る。

「遅くないっす。気づいた人が、動いたら早いんで。社長。」

社長は「ほな、動くわ」とだけ言って、会議室を出た。

背中が、先週より少し軽そうやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ