表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

423/761

火曜日。グランフロントの小籠包を食べながらオフの時間を弁護士先生と過ごす

火曜日。昼の大阪駅は、夜の新地とは別の顔をしてる。光の入り方が違うし、

人の歩き方も違う。博子はグランフロントの入口で、弁護士先生と待ち合わせをしていた。

「お疲れさまです。」

先生はスーツ姿のままやのに、どこか顔が緩んでる。

「いや、ええな。オフの時間に会える博子さん。店と違って、こっちの方が背徳感あるわ。」

「背徳感って、何の話ですか。」

「忙しい中で、時間作ってくれるやん。これ、価値としてデカい。普通に考えて。」

「冷静な分析やめてください。今日はただの昼飯です。点心です。」

そう言いながらも、博子はちょっと嬉しい。

“時間の価値”を分かってくれる人は、話が早い。無駄に張り合わんでいい。

「今日、ここなんですよ。小籠包。点心コースで二千二百円。」

「二千二百円で、ちゃんと満足できるん?」

「できます。というか、ここは大阪京都で一番好きです、私。」

言い切ると、先生が笑った。

「断言する女、強いな。」

店に入ると、昼の客層が一発で分かる。

女子が多い。ほんまに多い。仕事してるんかしてへんのか分からん服装の

お姉さんもいれば、昼休憩のオフィスっぽい人もいる。あと、たぶん“今日ここが用事”

みたいな奥様グループもいる。おじさんが少ない。新地の夜とは真逆や。

「平日のグランフロントって、こんな感じなんですね。」

先生が軽く感心したように言う。

「でしょ。おじさんは、たぶんここで迷子になるか、スタバで固まります。」

「失礼やな。」

席に案内されて、すぐに湯気が立つ。最初に出てきたのが、小籠包。カニと豚。

博子は箸を持って、当たり前みたいに仕切る。

「先生、まずレンゲ乗せて、ちょっと皮破って、汁吸ってから。

いきなりかぶりついたら火傷します。」

「はいはい、指導が早い。」

「食べてくださいよ。私が出すわけじゃないですけど。」

「分かってますよ。」

先生がレンゲに乗せて、一口。次の瞬間、目がちょっと丸くなる。

「……うま。汁、えぐいな。」

「でしょ。」

カニの方は香りが広がって、豚の方はコクが重い。

どっちも肉汁がちゃんとしてて、雑な“熱いだけ”じゃない。

博子は、それを確認するみたいにもう一つ食べる。

先生がふと周りを見て言う。

「しかも、ここ大阪駅の近くやろ。値段も高すぎへん。これ、地味にすごいな。」

「そうなんですよ。遠いと『行くのだるい』が出るじゃないですか。ここは

“行きやすいのに満足度高い”のが強い。」

「はい、また設計の話になった。」

「今日は設計じゃなくて、点心です。」

「同じやろ。」

二人で笑ってる間に、点心が続く。焼売、蒸し餃子、ちょっとした一品。

どれも丁寧に作られてて、“安く見せるための量”じゃなく“美味しく見せるための形”になってる。

「これ、手抜きないですね。」

先生がぽつりと言う。

「そう。だから好きなんです。」

最後に汁そば。

胃に落ちる感じが、変に重くない。

昼に食べても、午後が死なないやつ。

先生はスープを飲みながら、また周りを見てる。

「しかし、おじさんおらんな。平日のここ、完全に女のテリトリーやん。」

「でしょ。だから私、ここ好きなんです。女同士でも入りやすいし、変に見られない。」

「新地の夜とは真逆の空気やな。」

「真逆です。こっちは“誰も戦ってない”。」

先生が頷いて、少し間を置いて言った。

「こういうの、ええな。派手な遊びじゃなくて、落ち着く。…背徳感の正体、

たぶんこれやわ。仕事の昼に、ちゃんと“人間の時間”してる感じ。」

「先生、また分析してる。」

「やめられへん。」

店を出ると、外の空気が一段明るい。

博子は軽く伸びをして、先生の方を見る。

「じゃ、次。グラングリーン行きましょう。」

「芝生?」

「芝生。ちょっと歩いて、コーヒー飲んで、終わり。今日の“余白”はそれで十分です。」

先生は小さく笑った。

「博子さん、ほんまに“ちょうどいい”作るの上手いな。」

「今日は点心の余韻を持って帰るだけで勝ちです。行きましょ。」

二人は人の流れに紛れて、グラングリーンの方へ歩き出した。

昼の梅田は騒がしいのに、なぜか心は静かやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ