表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/108

税理士先生と後半戦。ヘルプの2人の場内指名を本指名に切り替え。森伊蔵を頂く。

ええ夜やった、という言葉が自然に出る空気やった。

黒霧島のボトルはまだ残っているけれど、グラスを置いた税理士先生が、

少しだけ声のトーンを落として言う。

「今日はええ感じやしな。せっかくやから、もうちょっとええやつ入れよか」

その一言で、場がふっと柔らぐ。“今日は気分がいい”というサインや。

「じゃあ……森伊蔵、いかがですか?」

博子がそう提案すると、先生はすぐに反応した。

「あれ、うまいよな。ええやん、それでいこか」

派手すぎず、でも“格”は上がる。黒霧島からの自然なステップとしては、

ちょうどええ選択やった。ボトルの話が決まったタイミングで、先生が続ける。

「あと、もうちょっとだけ延長してもええかな?」

この言葉が出た時点で、今日はもう“成功”やと分かっていた。

けれど博子は、そこで即答しなかった。

「ありがとうございます。この場が楽しいから言ってくださってるの、

すごく嬉しいです」一呼吸置いて、柔らかく続ける。

「それでですね……もし可能やったらなんですけど。アルカちゃんと、

 サキちゃんの場内指名を、本指名に切り替えていただけたら、もっと嬉しいなって」

場が一瞬、静かになる。押しつけではなく、“提案”の形。

「お店のルール上も、その方が女の子たちも助かりますし。

もちろん、細かいところは私の方で調整しますので」

税理士先生は、少し考えてから笑った。

「なるほどなぁ……そこまで考えてるんか」

「みんなで楽しいのもいいですけど、

個別でちゃんと楽しめる関係ができたら、もっと長く続くと思うんです」

そう言いながら、博子は視線をさりげなく保険会社の社員さんの方へ向ける。

その中の一人が、さっきからアルカちゃんの話に一番よく反応しているのを、ちゃんと見ていた。

「そういえば……」ヒロコは、軽い調子で言う。

「今日、付き合いで来てくださったって言ってましたけど、

アルカちゃんのこと、結構お気に召してましたよね?」

社員さんは少し照れたように笑う。

「まあ……話しやすいしな」

「せっかくのご縁ですし、

これをきっかけに、連絡取ってみて、一緒にご飯とか、同伴とか……

そういう形でゆっくり話す機会作るのも、全然アリやと思いますよ」

“営業”というより、“きっかけ作り”。水をそっと投げるような言い方やった。

「今日みたいに、みんなで飲むのも楽しいですけど、個別で距離縮めて、

たまに『今こんな感じです』って途中経過を話すのも、なかなかええもんです」

社員さんは、グラスを持ったまま少し考え、

「……確かに。それ、悪くないですね」と、一声落とす。

アルカちゃんは、表情を崩さず、でも目元だけで“ありがとう”を伝えてくる。

サキちゃんも、静かにうなずいていた。税理士先生が、苦笑いしながら言う。

「ヒロコちゃん、もう二十歳やのに……どこまで分かってんねん」

「たまたまですよ」そう返しながらも、博子は内心で思う。

――“場を回す”って、こういうことや。延長は自然に決まり、森伊蔵が入り、

指名の切り替えの話も前向きに進む。博子は一度席を立ち、黒服のところへ向かう。

「今の状況なんですけど……」

低い声で、簡潔に説明する。

・黒霧島から森伊蔵に切り替え

・延長あり

・サキちゃん、アルカちゃんは本指名切り替えの方向

・保険会社の一人は、アルカちゃんと個別で動く可能性あり

黒服は目を丸くしてから、ニヤッと笑った。

「……博子、最近ほんまに変わったな」

「積み上げてるだけです」

そう言って席に戻ると、場は相変わらず穏やかで、温度もちょうどいい。

派手さはないけど、芯のある夜。――今日は、ええ夜やった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ