税理士先生と後半戦。ヘルプの2人の場内指名を本指名に切り替え。森伊蔵を頂く。
ええ夜やった、という言葉が自然に出る空気やった。
黒霧島のボトルはまだ残っているけれど、グラスを置いた税理士先生が、
少しだけ声のトーンを落として言う。
「今日はええ感じやしな。せっかくやから、もうちょっとええやつ入れよか」
その一言で、場がふっと柔らぐ。“今日は気分がいい”というサインや。
「じゃあ……森伊蔵、いかがですか?」
博子がそう提案すると、先生はすぐに反応した。
「あれ、うまいよな。ええやん、それでいこか」
派手すぎず、でも“格”は上がる。黒霧島からの自然なステップとしては、
ちょうどええ選択やった。ボトルの話が決まったタイミングで、先生が続ける。
「あと、もうちょっとだけ延長してもええかな?」
この言葉が出た時点で、今日はもう“成功”やと分かっていた。
けれど博子は、そこで即答しなかった。
「ありがとうございます。この場が楽しいから言ってくださってるの、
すごく嬉しいです」一呼吸置いて、柔らかく続ける。
「それでですね……もし可能やったらなんですけど。アルカちゃんと、
サキちゃんの場内指名を、本指名に切り替えていただけたら、もっと嬉しいなって」
場が一瞬、静かになる。押しつけではなく、“提案”の形。
「お店のルール上も、その方が女の子たちも助かりますし。
もちろん、細かいところは私の方で調整しますので」
税理士先生は、少し考えてから笑った。
「なるほどなぁ……そこまで考えてるんか」
「みんなで楽しいのもいいですけど、
個別でちゃんと楽しめる関係ができたら、もっと長く続くと思うんです」
そう言いながら、博子は視線をさりげなく保険会社の社員さんの方へ向ける。
その中の一人が、さっきからアルカちゃんの話に一番よく反応しているのを、ちゃんと見ていた。
「そういえば……」ヒロコは、軽い調子で言う。
「今日、付き合いで来てくださったって言ってましたけど、
アルカちゃんのこと、結構お気に召してましたよね?」
社員さんは少し照れたように笑う。
「まあ……話しやすいしな」
「せっかくのご縁ですし、
これをきっかけに、連絡取ってみて、一緒にご飯とか、同伴とか……
そういう形でゆっくり話す機会作るのも、全然アリやと思いますよ」
“営業”というより、“きっかけ作り”。水をそっと投げるような言い方やった。
「今日みたいに、みんなで飲むのも楽しいですけど、個別で距離縮めて、
たまに『今こんな感じです』って途中経過を話すのも、なかなかええもんです」
社員さんは、グラスを持ったまま少し考え、
「……確かに。それ、悪くないですね」と、一声落とす。
アルカちゃんは、表情を崩さず、でも目元だけで“ありがとう”を伝えてくる。
サキちゃんも、静かにうなずいていた。税理士先生が、苦笑いしながら言う。
「ヒロコちゃん、もう二十歳やのに……どこまで分かってんねん」
「たまたまですよ」そう返しながらも、博子は内心で思う。
――“場を回す”って、こういうことや。延長は自然に決まり、森伊蔵が入り、
指名の切り替えの話も前向きに進む。博子は一度席を立ち、黒服のところへ向かう。
「今の状況なんですけど……」
低い声で、簡潔に説明する。
・黒霧島から森伊蔵に切り替え
・延長あり
・サキちゃん、アルカちゃんは本指名切り替えの方向
・保険会社の一人は、アルカちゃんと個別で動く可能性あり
黒服は目を丸くしてから、ニヤッと笑った。
「……博子、最近ほんまに変わったな」
「積み上げてるだけです」
そう言って席に戻ると、場は相変わらず穏やかで、温度もちょうどいい。
派手さはないけど、芯のある夜。――今日は、ええ夜やった。




