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東京メイン社長、博子へのお手当を考え55万とするも博子は5万値下げを要求。面白くて電話する

東京駅に着いた瞬間、現実に引き戻された感じがした。人の波、アナウンス、せわしない足音。

さっきまで京都で、朝のパンの匂い嗅いで、植物園でぼんやりして、鯛茶漬けで締めて、

紅茶で落としたのに。改札を抜けたら、また「東京の速度」や。

社長はタクシーの後部座席で背もたれに頭を預けて、軽く息を吐く。

「……ほんま、行ってよかったな。」

二人の社長を置いてきた罪悪感はゼロではない。けど、それ以上に、今日の“密度”が勝った。

博子の遊び方は、派手さじゃなく、刺し方が違う。天満の看板でまず殴って、

鶏と芋で落として、店で場を作って、朝から北山に連れて行って、植物園で余白を見せて、

烏丸御池の千円ワンプレートで価値観をひっくり返して、最後にラウンジで静かに終わらせる。

全部が「金で殴る」と真逆の方向にあるのに、満足度だけは異常に高い。

家に着いて、風呂を沸かす。湯船に沈むと、ようやく体の力が抜けた。

そこで社長は、今日の“値付け”を整理し始める。こういうのを、曖昧な「楽しかった」で

終わらせたくない。刺さった理由を自分の中で形にしておきたい。

まず基本。

「今日一日付き合ってくれた」——これが10。

次に「早上がりさせた」——店としては痛いはずやのに、こっちの都合で抜けてもらった。ここが5。

ここまでで15。

そこから中身。

天満の驚きと、鳥と芋焼酎でちゃんと笑えて、味が良くて、場が生きてた。ここが10で25。

さらに、友達二人の“イラン戦線”を踏んだ空気を、ヒロコが変に重くせずに回収した。ここが10で35。

朝のモーニングと植物園。あれは「デート」じゃなく「呼吸」やった。しかも押し付けじゃなく、

さりげなく引き出しを増やしてくる。ここが10で45。

昼の千円ワンプレート。あの値段であの満足は、東京の感覚で言うと反則。最後の紅茶で締めたのも

良かった。ここが10で55。

「55やな。」

風呂上がり、髪をタオルで拭きながらスマホを手に取る。ヒロコにメッセージを送る。

内訳も添えて。変にカッコつけず、ちゃんと伝える。

少しして、返信が返ってきた。

社長は画面を見た瞬間、噴き出した。

「社長、前より評価していただいて嬉しいです。ありがとうございます。

ただ……キリのいいところで、5万引いてもらえませんか。」

「は?」

思わず声が出る。

55払う言うたのに、50でいい? 意味が分からん。……と思った次の行で、社長はさらに笑う。

「その5万円は“次”の交通費として絶対です。なので次の時に使ってください。」

なるほど。値引きじゃない。先払いの“布石”や。しかも堂々と書いてある。「次来い」って。

その上で、申し訳程度に話題を一つ置いてくる。

「あと一つだけ、会社のことで聞きたいことがあります。

奨学金返済を福利厚生に入れる会社って、実際どうですか?

あと就労不能(メンタル含む)系の保険を会社で入れる流れ、最近ありますか?」

社長はソファに沈み込んで、笑いが止まらなくなる。

「うわ……やるな。」

5万引いて“丸くする”顔しながら、次の約束を埋め込んで、会話の糸も切らせへん。

しかも質問が、重すぎず軽すぎず、ちゃんと自分の専門性を引き出す球。

これが“話題を切らせない仕組み”ってやつや。

「これは……一回電話せなあかん。」

文字で返したら負ける気がする。というか、この笑いを共有したい。

社長はスマホを持ったまま、もう一度メッセージを読み返して、また吹き出した。

「55払う言うたのに、50でええって……なんやねんこの女。」

笑いながら、通話ボタンに指を置いた。

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