海鮮丼のワンプレートに東京メイン社長が感動。最後の鯛茶漬けまでようやくたどり着く
ワンプレートがテーブルに置かれて、二人とも一瞬だけ黙った。見た目の情報量が多い。
小鉢がいくつも並び、揚げ物、野菜、ちょっとした副菜、そして中央には海鮮の乗った丼。
皿一枚とは思えない。
社長が箸を持ちながら、思わず声を出す。
「いやいやいや……」
博子が笑う。
「どうしました?」
社長が皿を指差す。
「このプレートで千円か?」
少し首を振る。
「東京じゃ絶対ありえへんぞ。」
博子が頷く。
「ありえないでしょうね。」
社長がすぐ言う。
「こんなん丸ビルで出したら普通に二千五百円するわ。」
博子が軽く笑う。
「しますね。」
社長がさらに言う。
「いやいや、するする。それでも普通に客並ぶぞ、これ。」
箸で揚げ物をつまんで口に入れる。少し噛んでから、目を丸くした。
「うま。」
博子が笑う。
「でしょ。」
社長が次に小鉢をつまむ。
「いや、飯めちゃめちゃうまいやんけ。」
博子が言う。
「これですよ。」
社長が顔を上げる。
「何が?」
博子がゆっくり言う。
「場所なんですよ。」
社長が箸を止める。
博子は続ける。
「もちろんね、漁港の近くで取れたての魚食うとかに比べたら、
それは値段も張ってるかもしれないです。でも――」
海鮮丼を指差す。
「都会で、地方都市で、このレベルの魚がこの値段で食えるっていうのが、
多分魅力なんだと思うんです。」
社長が頷く。
「なるほどな。」
博子が言う。
「田舎すぎると、今度インフラの問題出てくるでしょう。」
社長が少し考える。
博子が続ける。
「能登の地震の時もありましたけど、復興どうすんのかみたいな話になるじゃないですか。」
社長が頷く。
「確かにな。」
博子が言う。
「田舎すぎると、空き家とかもすごいですよ。見に行ったら、もう“誰も住む気ないやろ”
みたいな物件も普通にあります。」
社長が苦笑いする。
「たたずまいが怖いやつな。」
「そうですそうです。」
博子は軽く笑った。
「それはそれで、ニーズ合えばいいんでしょうけど。」
少し箸を動かしながら続ける。
「でも、そこそこ娯楽があって、人もいて、生活できる場所って考えると――」
社長を見る。
「地方の主要都市って、ありだと思いますよ。」
社長が聞き返す。
「例えば?」
「京都とか大阪とか。」
社長が海鮮丼を食べながら言う。
「まあ確かに。」
博子が続ける。
「実際、東京の社長さんが京都とか大阪の駅前のマンション住むって話、普通に聞きますよ。」
社長が興味を持つ。
「そうなん?」
「ありますあります。」
博子が言う。
「新幹線が目の前にあると、下手したら東京より楽な時ありますから。」
社長が笑う。
「それは言い過ぎやろ。」
博子が肩をすくめる。
「でもグリーン車乗ったら、まあまあ快適じゃないですか。」
社長が頷く。
「それはそうやな。」
博子が言う。
「毎日乗るわけじゃなかったら、全然ありですよ。」
社長が少し考え込む。
「二拠点生活か。」
博子が軽く言う。
「ありかもしれませんよ。」
社長が笑う。
「確かにそれはありかもしれんな。」
博子が続ける。
「銀座とか六本木で遊んで、一晩十万飛ばすくらいなら――」
社長が笑う。
「耳痛いわ。」
博子が言う。
「ワンルームのマンション借りて、週末こっち来るのもありじゃないですか。」
社長が箸を動かしながら言う。
「ホテル代も浮くしな。」
「そうです。」
博子が言う。
「しかも、あれじゃないですか。」
少し声を落とす。
「経費で切ればいいじゃないですか。」
社長が笑う。
「お前、急にリアルやな。」
博子も笑う。
「いや、普通の提案です。」
社長が言う。
「こっち来たら観光もできるしな。」
「そうそう。」
博子が続ける。
「まあ、百歩譲ってそれじゃなくても、最近中国人観光客減ってるからホテル安いんですよ。」
社長が顔を上げる。
「そうなん?」
「そうなんです。」
博子が言う。
「安いホテル、また教えますから。」
社長が笑う。
「どんどん京都大阪にハメようとしてくるな。」
博子が首を振る。
「そんなつもりないです。」
少し笑って続ける。
「一つのご提案です。」
社長が笑いながら海鮮丼を食べ進める。
「いや、でもな――」
箸を置いて言う。
「この飯食ったら、ちょっと説得力あるわ。」
博子が笑う。
「でしょ。」
社長は丼を空にして、満足そうに息を吐いた。
すると店員が声をかけてきた。
「ご飯のおかわりお持ちしましょうか?」
社長がすぐ言う。
「お願いします。」
少しして、ご飯と出汁が運ばれてくる。博子が横にある鯛の刺身を指差す。
「これ、ここで乗せてください。」
社長が言う。
「おお。」
出汁をかけると、湯気がふわっと立ち上る。
社長が嬉しそうに言った。
「これが最後の鯛茶漬けか。」
博子が笑う。
「はい、締めです。」
社長は箸を持ち直す。
「よし。」
そして一口食べて、小さく頷いた。
「……これは反則やな。」




