北山ブリアンの落ち着きとホテルのモーニングと比較したコスパの良さと食べ放題パンの旨さに満足
「……うま。」
社長が、カリカリベーコンを噛んだ瞬間に顔を上げた。
あの反応は、もう説明いらんやつや。言葉より先に身体が納得してる。
「やっぱ全然ちゃうな。」
ウィンナーも一口。パリッと音がして、肉の脂がじわっと広がる。
スクランブルエッグはふわふわで、塩の当たり方が優しい。
サラダも、ただの添え物じゃなくてちゃんと“整えて”ある。
博子は笑いながら、フォークを置いた。
「でしょ。朝ごはんって、こういうのでいいんですよ。」
社長がパンをちぎって口に入れながら言う。
「いやいや、これで千五百円は安いやろ。」
「安いです。」
博子が即答したら、社長がニヤっとする。
「ほら。やっぱりや。」
博子は少し肩をすくめる。
「でもね、これ“安い”って言っても、東京の感覚でです。
京都って、ホテルのモーニングで普通に三千円取るとこ、結構あるんですよ。」
社長が眉を上げる。
「朝やで?朝。」
「朝です。しかも、雰囲気だけで殴ってくる店もあります。古い資料とか見てたら、
朝食付きで三千円くらい、余裕であります。ホテルのモーニングって、そういう世界です。」
社長が「うわ」と言いながら、もう一回ベーコンを噛む。
「でも、ここは違うな。」
博子が頷く。
「そう。値段で殴ってこない。“ええもん出して、淡々と座らせる”って感じがするでしょ。」
社長が口の端を上げる。
「余裕やな。余裕。」
「余裕です。しかも、店側が“頑張って見せてない余裕”ってやつです。」
社長はしみじみ窓の外を見た。まだ開園前の植物園の入り口が見える。人の流れも少ない。
車の音も遠い。
「東京におったら、この余裕は絶対味わえへんな。」
博子は少し間を置いてから、軽く笑った。
「味わえないです。東京って、朝からもう“戦場モード”なんですよ。人も、空気も、店も。」
社長が首を傾げる。
「でも東京にもこういう店、あるやろ?」
「あります。あるけど、同じ形ではないです。同じ形を探したら、たぶん三千円は普通に超えます。」
「うわ、出すなあ。」
社長は笑うけど、そこに“惜しい”って感情はない。
むしろ、値段の話が出るほど、今の千五百円が光る。
博子はパンのかごをちらっと見て、社長を見た。
「社長、最初に取らんで正解でしたね。」
社長が得意げに言う。
「お前が止めたんやろ。」
「止めました。焼きたて、まだ来るんで。」
そのタイミングで、店員さんがまた小さいパンを持ってくる。
社長の目がまた一瞬、子どもになる。
「ほら来た。」
博子が笑う。
「言うたでしょ。ここは“焦って取りにいかん方が勝つ”店です。」
社長がパンを手に取りながら、もしゃもしゃ食べる。
その食べ方が、もう肩の力抜けてる。
「なんか、久しぶりに“朝ごはんで満足した”わ。」
博子はそれを聞いて、内心ちょっとだけ安心した。
この人、今ここで“余白”を飲み込めてる。
「でしょ。これで腹が落ち着くと、次の景色がちゃんと入ってきます。」
社長が頷く。
「なるほど。腹が落ち着くと、頭も落ち着く。」
「そう。今日のテーマは、まずそれです。」
窓の外の緑が、少しだけ明るくなってきた。
社長はコーヒーを飲みながら、満足そうに背もたれに体を預ける。
「……ほんま、ええとこ連れてきたな。」
博子は軽く笑って、さらっと返す。
「まだ“入口”です。でも、入口でこれだけ満足してくれたら、今日は勝ちやと思ってます。」
社長が笑う。
「勝ち負けの言い方、ほんま好きやわ。」
博子も笑った。
「私、仕事なんで。」




