東京メイン社長帰宅。明日の朝から楽しみ。博子ちゃんも時給払うから帰りや。女性陣で軽く雑談後博子帰宅
「ほな、明日のこともあるし、今日はこれぐらいで帰るわ。」
三セット目の余韻がまだ残ってるのに、社長はもう立ち上がる気配を見せた。
顔は上機嫌やけど、目の奥はちゃんと現実を見てる。明日があるって分かってる顔や。
社長が時計を見て言う。
「明日、ブリヤン八時半やろ。ってことは、大阪七時半には出なあかんやん。」
ヒロコは笑って返す。
「そうですよ。私これから、あと二セット残ってるのに。」
冗談っぽく言うたけど、内心はちょっと助かった。今日の流れ、
社長が一人で突っ走った分だけ、店でもう一回“形”にしておきたかった。
けど、明日も朝から京都。体力は有限や。
社長がさらっと言う。
「いや、その分の時給払うし、ちゃんと包むから。今日は上がり。もう帰り。」
博子は一瞬、言葉が詰まった。
「……マジですか。ありがとうございます。」
声のトーンが、自然に一段だけ下がる。こういうときに変に強がったらあかん。
嬉しい時は、嬉しいって受け取った方が、相手にも伝わる。
博子はすぐに、冗談めかして返す。
「その代わり、明日朝から、社長の心をぐさぐさ刺すやつ、ちゃんとやりますんで。」
社長が笑う。
「それそれ。俺はその“刺さるやつ”が欲しくて来てんねん。」
「じゃ、私上がらせてもらいます。」
博子は一回、深く頭を下げて席を立った。
社長も「ほなな」と軽く手を上げて、先に店を出ていく。
社長の背中が消えると、急に店の音が戻ってくる。グラスの音。黒服の声。隣卓の笑い。
“非日常”が一枚剥がれて、またいつもの夜や。
博子は裏でさっと着替えを済ませて、フリーの宅に戻る。
そこに、さきちゃんとアルカちゃんが待ってたみたいに顔を上げる。
アルカちゃんが先に言う。
「ヒロコちゃん、ほんまにありがとう。三セット目、混ぜてくれて。」
さきちゃんも続く。
「助かった。あれ、入ってなかったら、今日の空気、ちょっと変なまま終わってたと思う。」
博子は苦笑いして肩をすくめる。
「いやいや。ここで重ねとく方が、絶対ええやん。」
アルカちゃんが頷く。
「うん。向こうで三人で“また大阪来よか”って流れ、作っといた方がいい。」
さきちゃんが少し顔をしかめる。
「だってさ、腹探られて、次もしれっと三人で来られたら、こっち嫌やもん。
変に探り入れられて、こっちは曖昧に返して、って……疲れる。」
博子も頷く。
「そう。今日みたいに“空気を一回整える”の、めちゃ大事。
社長たちって、本人ら無自覚で『情報取りに来る』からな。」
アルカちゃんが笑う。
「プンプンしてたしな。“また来る”の匂い。」
さきちゃんも頷く。
「してた。今日の感じ、絶対また来る。」
博子はテーブルに肘をついて、少しだけ真面目な声になる。
「だから次来た時は、この前の鉄板コースの“要素”を、ちょっとでも生かせる動きにしたいねん。」
アルカちゃんが目を細める。
「余白とか、ずらしとか、東京基準とか、あれやろ。」
「そう。全部は無理でも、一本は入れる。“これ大阪来る意味あるわ”って、三人とも思えるように。」
さきちゃんが小さく息を吐く。
「うん。私も、東京の値段感、もうちょい意識する。私らの“ちょっと高い”と、
向こうの“普通”が違う。」
博子は笑う。
「それだけ気づけたら十分やって。あとは回しながら、チューニングや。」
時計を見る。もう時間が押してる。
「じゃ、私ほんまに帰るわ。明日朝からあるし。」
アルカちゃんが驚く。
「朝八時半から北山って大変やな……」
さきちゃんも笑う。
「京都の朝って、意外と容赦ないよな。」
博子は笑いながらバッグを肩にかける。
「でも、夜は行かんで良くなりそうやねん。朝と昼で刺して、帰ってもらうつもり。」
アルカちゃんが「それ正解」と頷く。
「無理して夜まで付き合ったら、また体がもたん。」
さきちゃんも手を振る。
「おつかれ。明日、気をつけてな。」
博子は小さく頭を下げた。
「おつかれさま。また次、みんなで作戦会議な。」
フリーの宅を出て、廊下の冷たい空気に触れた瞬間、肩の力が抜けた。
明日は朝。北山。ブリヤン。植物園。――そしてまた、次の“仕掛け”。
博子は「ほんま忙しいわ」と小さく笑って、家路についた。




