水曜日。勢いのある卓にフリーで入る。アルカちゃんと初同卓。
水曜日。やはりこの日は、不動産関係が多い。
曜日と業界は正直だ。水曜休みの人間が動く夜は、
自然と顔ぶれが偏る。博子はフロアを見渡しながら、空気を読む。
勢いがある卓は、遠目でもわかる。声のトーン、笑いの間、グラスの減り方。
そして何より――ボトル。ソウメイが開いている。
それだけで、その卓の「今」が見える。
勢いがあるか、無理しているか、流れが自然か。
全部、ボトルが語っている。その卓に、アルカがついていた。
アルカは不思議な子だ。はしゃげるし、空気も作れる。
それでいて、変に前に出すぎない落ち着きもある。
ガンガン煽るタイプではないが、場を冷まさない。
「ええバランスやな」博子は内心でそう思う。
勢いのある卓に、アルカがついているなら、
無茶な流れではない可能性が高い。
黒服の合図で、博子もフリーでその卓に着く。
「はじめまして、博子です」軽く頭を下げて、場の温度を測る。
すでに酒は回っているが、荒れてはいない。会話の中心は仕事の話だ。
不動産。やはり来たか、と博子は思う。
タワマンの話、土地の話、「今はここが動いてる」「あそこは危ない」
そんな言葉が、酒の肴のように飛び交っている。
博子は、あえてすぐには入らない。まずは聞く。
この卓が、飲みたい卓なのか、話したい卓なのか。
「最近、動きいいですね」その一言だけ、軽く投げる。
それで反応を見る。一人の社長が、少し身を乗り出した。
「お、博子ちゃんも不動産わかるん?」
来たな、と博子は思う。でも、ここで知ったかぶりはしない。
「詳しいわけじゃないですけど、最近お客さんからよく聞くので」
この距離感がちょうどいい。教えてもらう側に回る余地を残す。
社長は饒舌になる。市況の話、外国人需要、相続絡みの案件。
ヒロコは相槌を打ちながら、頭の中で整理する。
(この人は、話したい)(しかも、ちゃんと聞いてくれる相手を探してる)
一方で、別の社長は完全に飲みモードだ。グラスの減りが早く、笑い声も大きい。
その人にとっては、今日は深い話はいらない。
「様子見やな」博子は判断する。この卓は、指名を狙える人と、狙わない人が混在している。
無理にまとめて取りに行く必要はない。
アルカと目が合う。軽くうなずく。お互い、状況を理解している。
ソウメイはすでに開いている。この流れなら、「飲める時は飲む」
それでいい。ヒロコも一杯だけ、場に混ぜてもらう。無理に煽らない。
でも、引きすぎない。飲みながら、不動産の話を聞く。
ヒロコにとっては、全部がネタだ。接客のためでもあり、
自分の勉強のためでもある。(この話、次に使えるな)
(この人は、後で個別に話した方がいい)
十五分ほどで、方向性は見えた。指名を取りに行けそうなのは一人。
話をしたがっていた社長だ。博子は、少しだけ距離を詰める。
「またゆっくり、教えてほしいです。今日みたいに、落ち着いて話せる時に」
それだけで十分だった。「お、じゃあ次は指名で呼ぶわ」
軽い言葉だが、この場の流れなら本気だ。一方、完全に飲みモードの社長には、
深入りしない。その人は、その人で楽しめばいい。「今日は楽しいですね」
そう言って、あえて引く。無理に引き止めない。
結果として、一つは指名の芽、もう一つは飲みの流れ。
どちらも悪くない。席を立つとき、アルカが小さく笑って言った。
「博子ちゃん、無理せんのがええよな」博子も笑って返す。
「うん。無理したら、続かんから」水曜日は、こんな日でいい。
全部取らなくていい。取れるものだけ、丁寧に拾う。
フロアの喧騒の中で、博子は次の一手を静かに考えていた。
今日は飲む日。そして、少しだけ未来に繋がる日。
それで十分だと思えた夜だった。




