月曜日ラストの時間に東京イキリ社長から電話。土日同伴と座組押さえてくれ!!
フリーの卓で五セット目に入った頃、博子のスマホが小さく震えた。
画面を見る。
――東京イキリ社長。
「来たか……」
博子は一瞬だけ深呼吸をして、軽く席を外す。
廊下の静かなところで電話を取る。
「もしもし、博子です。」
「おう。今週の土曜どうや?」
いきなり本題。
博子は少し苦笑する。
「実はですね……この土日で東京の社長三人組をお相手させてもらって。」
「ほう。」
「そのうちの一人がめちゃめちゃ刺さりまして。」
「おお。」
「さっき土日押さえに来はったんですよ。単品で。」
電話の向こうで一瞬沈黙。
「……あー、なるほどな。」
イキリ社長が笑う。
「じゃあ今週の土曜は無理か。」
「はい、ちょっと難しいです。」
「わかった。じゃあ来週の土曜頼むわ。」
即決。
「わかりました。できるように調整します。詳細決まったらまた連絡しますね。」
すると社長がニヤッとした声で言う。
「その東京の社長、単独で来るってことは……博子に刺さったってことか?」
「まあ……そうですね。」
「他のメンツも一緒に来るんか?」
「いえ、その社長一人だけです。」
「なるほどな。」
社長は笑う。
「多分博子の座組ハマったな。」
「そうかもしれません。」
「どんなとこ行ったん?」
博子は簡単に説明する。
「社長と同じで、鉄板コース回って。気づきを自然に引き出す感じです。」
「ほう。」
「それがめちゃめちゃ刺さったみたいで。」
博子は少し笑う。
「六本木とか銀座で遊ぶのやめて、大阪通おうかなって言うてはります。」
電話の向こうで爆笑が起きた。
「いやいやいや!」
「そんな刺さるか!」
博子も笑う。
「私もそこまでとは思ってませんでした。」
「いや確かに刺さるのはわかる。でもそこまでか?」
少し落ち着いてから、社長が聞く。
「ちなみにやけど……どうせ手当てもろてるんやろ?」
「……」
「なんぼもらったん?」
博子は苦笑する。
「それ言ったら引かれるから言わないです。」
「引くかいな!」
社長が即座に言う。
「俺、1日なんぼ使ってると思ってんねん。」
博子は少し迷ってから言う。
「この前社長、20でしたよね。」
「そうや。」
「50のつもりでって言ってくれてましたけど。」
「ああ。」
博子は静かに言う。
「あの社長、倍払ってくれました。」
電話の向こうが一瞬止まる。
「……40か。」
「はい。」
少し沈黙。
それから社長が笑う。
「まあ確かに、それだけの価値はある。」
「ありがとうございます。」
「ていうか、この前50払うつもりで云々って俺言うてもうたからな。」
「はい。」
「差額、次の回で上乗せして払うわ。」
博子が笑う。
「社長、律儀ですね。」
「当たり前や。」
そして続ける。
「だから来週土曜組んでくれ。」
「わかりました。」
「他の社長連中も連れてくるから頼むわ。」
博子は少し真面目な声になる。
「ただ一つだけ。」
「ん?」
「あの鉄板、多少期待されても……」
少し笑う。
「あれ、会心の一撃なんですよ。」
社長が笑う。
「再現性低いんか。」
「低いです。」
「正直やな。」
「なので、その都度金額は変えてもらって大丈夫です。」
「なるほど。」
博子は続ける。
「あともう一つ。」
「なんや。」
「この前の3対3、他の二人と結構差が出たんです。」
「ほう。」
「それで私もちょっと葛藤してて。」
博子はゆっくり話す。
「別に揃えてくれとは言わないです。でも最低ラインだけはお願いしたい。」
「最低ライン?」
「10です。」
「なるほど。」
「それは三人とも払ってくれてました。そこから上は社長方の判断で。」
社長が感心したように言う。
「チーム戦でそこまで面倒見てんのか。」
「そうです。」
「そんなん放っといて一人で売れたらええやん。」
博子は静かに言う。
「違うんです。」
「ん?」
「バランス、大事なんですよ。」
少し間を置く。
「一人だけ売れると、ひがみとかも出てくるんで。」
社長が笑う。
「なるほどな。」
「だから集団で動いた方がいいと思ってるんです。」
「確かに。」
博子は続ける。
「社長みたいに座組組んで来てくれる人もいるし。」
「うん。」
「帰りの新幹線で皆で感想言いながら帰るのが楽しいって人もいるんです。」
社長が頷く声がする。
「なるほどな。」
「別腹で来てくれるのは嬉しいです。でも一応、全体の設計は考えてます。」
電話の向こうで笑い声。
「わかったわかった。」「全部わかった。」
「ほんまですか?」
「とりあえず土曜行く。」
博子が笑う。
「ありがとうございます。」
「土曜の同伴と、日曜の座組。」
「はい。」
「楽しみにしてるから、なんか考えといてくれ。」
「わかりました。」
社長が最後に言う。
「調べもんあったら言えよ。」
「え?」
「こっちの経費で切るし。」
博子が笑う。
「社長、それズルいです。」
「使えるもん使え。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、来週な。」
電話が切れる。
博子はスマホを見ながら小さく息を吐く。
「……また動き出したな。」
そして何事もなかった顔で、フリーの卓へ戻っていった。




