弁護士先生との店内。時給アップのお知らせ。先生との関西での生活の延長のお客さんも大事やな
店に入って、博子は一瞬だけ深呼吸をした。
「今日は王道、王道。」
弁護士先生との会話、どう組み立てようかと頭の中で軽く設計を回していると、
黒服が横から小さく声をかけてきた。
「博子ちゃん、ちょっと裏ええ?」
控室のほうへ呼ばれる。
「なにやろ…」
黒服がニヤッとする。
「今日から時給6,000円やから。」
「……え?」
一瞬、理解が追いつかない。
「あ、ありがとうございます……え、いいんですか?」
黒服は肩をすくめる。
「土曜、社長3人組が3人で20万、別でボトル入れてくれたやんか。」
「あー……やっぱ見てました?」
「そらそうや。店も見てるで。」
博子は苦笑する。
「どうやったん?」
「刺さりそうって言ってた東京の社長が、一人で今週土曜同伴するって連絡入れてきてて…3対3の座組考えたら、ちょっと戸惑ってます。」
黒服は即答。
「まあええんちゃう?」
「え?」
「別腹って言うてくれてるんやろ?なんかあったら俺に言うてくれたら間もつし。」
軽い。軽すぎる。
「ほんまに持ってくれるんかいな…」
と思いながらも、「わかりました」と返す。
*****
席に戻る。
弁護士先生がグラスを傾けながら笑う。
「裏で昇給ですか?」
「耳ええですね。」
「顔で分かります。」
博子は肩をすくめる。
「土曜の件、店もちゃんと見てたみたいです。」
「でしょうね。」
先生は静かに頷く。
博子は正直に鉄板コースについて話す。
「ただ、先生にぐさぐさ刺さるかって言われたら、ちょっとわかんないです。」
「おや。」
「結構使ってる社長たちには刺さる。ロジックの外っていうのは間違いない。
でも先生はスペック高いですけど、金の使い方がサラリーマン的というか…給料で
どうこうっていう世界じゃないですか。」
先生がニヤリとする。
「なめないでください。サラリーマンにはボーナスというものがあるんで。7月分ありますよ。」
博子は吹き出す。
「そうでしたね。」
「僕も一応、資本主義側です。」
二人で笑う。
博子は少し真顔に戻る。
「でもね、東京の社長さんとは違って、先生は遊びの延長線じゃないですか。」
「ほう?」
「地域差もあるし、金くれ金くれって言うのも変な話やし。そこはお気持ちで全然いいんです。」
先生は真面目に聞いている。
博子は続ける。
「ただ、土日がバンバン埋まり始めてるんです。」
「人気者ですね。」
「今週は東京の社長来ますし、その次の週は別の社長が3人連れてくるって言うてて。」
「おお。」
「だから土日はちょっと難しい。」
先生は顎に手を当てる。
「平日は?」
「平日なら、私仕事休みの日あるんで、なんとかできます。」
「どこかで休み取りますよ。」
即答。博子が笑う。
「今日の明日行きましょうは無理ですからね。」
「さすがにそこまで無茶は言いません。博子さんが疲れてるぐらい、僕もわかります。」
優しい。目は笑っている。
「会いたい気持ちはありますけどね。」
「さっきお気持ちでいいって言いましたやん。」
「矛盾してます?」
「してます。」
二人でまた笑う。
先生が軽く身を乗り出す。
「じゃあ火曜無理でも木曜。タダで遊んでくれるチケット使わせてもらって、
2、3時間ランチとかどうです?」
「タダちゃいますやん。」
「精神的無料です。」
「なんですかそれ。」
「夜軽くお茶でもええですし。」
博子はグラスを持ち上げる。
「言うてること矛盾してますやん。」
「自覚あります。」
笑いながら、2セット目が終わる。
王道の夜。
熱すぎず、冷たすぎず。
余白を残しながら。
ヒロコは心の中で思う。
「この人は、この人で大事やな。」
東京の社長とは違う刺さり方。
ロジックの外に行く前に、ロジックで受け止めてくれる人。
それもまた、余白。
2セットが終わり、グラスを置きながら、博子は静かに息を吐いた。
土日も、平日も。
全部が動き出している。
でも、まだバランスは崩れていない。今のところは。




