東京のメインの社長と博子の電話。チームのこともあるし、個別は歓迎やけど様子見ながら
メインの社長は、博子からの返信を読んで、すぐに打ち返した。
――うん、それでお願いするわ。
一拍おいて、さらに続ける。
――近いところで、今週の土曜日どうや?
送信ボタンを押した瞬間、自分でも少し笑ってしまう。
「早いな、俺。」
でも、勢いは止まらない。
続けて、もう一通。
――別に無理に1日空けろとは言わへんで。
――とりあえず土曜日どういう感じか教えてくれたらええ。
ここで、具体案を出す。
――前に言うてた芋焼酎の美味しい店、そこで同伴させてよ。
――ヒロコちゃんの見識、芋焼酎でもう一回ちゃんと聞きたい。
さらに踏み込む。
――そのあと指名で行って、
――土曜に開けた酒、じっくり飲みながら話そうや。
そして、少しだけ間を空けてから、核心。
――日曜、もし時間あるなら観光ちょっと見てくれへん?
――お願いや。
最後に一行、付け加える。
――もちろん、他の二人には内緒で行く。
――でも座組をやってるのはちゃんと分かってるから、
――3人で行くのはまた別腹でちゃんと用意するし。
送信。
「……こんなメールするの、久しぶりやな。」
昔、若い頃、気に入った女に連絡していた時みたいだ。
でも違う。これは恋ではない。
価値への投資。体験への再現性確認。
そう言い聞かせながらも、胸は少し高鳴っている。
*****
その頃博子は、ベッドに腰かけたまま返信を読んでいた。
――今週の土曜日どうや?
「はやっ……!」
思わず声が出る。さらに読み進める。
芋焼酎の店。同伴。そのあと指名。
日曜観光。内緒。別腹。
ヒロコは天井を見上げた。
「ちょっと待てや……」
嬉しい。ありがたい。しかも、きっちり段取りを提示してくる。
甘くない。ちゃんと筋も通している。
でも。土曜、日曜。
しかも内緒。チーム戦のバランス。
頭の中で、一気に計算が走る。
土曜の自分の出勤状況。他の二人の予定。
店の混み具合。同伴枠。
“個別”をどこまで許容するか。
「これはメールで返す話ちゃうな。」
博子は即断した。
文字ではニュアンスが難しい。距離感も、温度も。
少し間違えたら、依存にもなるし、冷たくもなる。
博子は電話ボタンを押した。
コール音。東京の自宅で、社長のスマホが震える。
画面に「博子」の文字。
社長は一瞬驚く。
「電話?」
慌てて出る。
「もしもし?」
博子の声は、いつもより少しだけ真面目だった。
「社長、ちょっと早ないですか?(笑)」
軽く笑いを混ぜる。でもトーンは落ち着いている。
「土曜いきなり言われて、正直びっくりしましたわ。」
社長は笑う。
「刺さったんやもん。」
博子は小さく息を吐く。
「嬉しいですよ、ほんまに。でもな、あれは会心の一撃なんです。」
少し間を置く。
「土曜の同伴、全然嫌ちゃいます。芋焼酎の店も連れていけます。」
そこまでは即答。
「でもな、内緒っていうのは、ちょっと扱い慎重にさせてください。」
声は柔らかいが、芯はある。
「チームでやってる以上、バランスは見なあかん。社長が来てくれるのは
ウェルカムです。個別も全然ありです。」
一呼吸。
「でも、依存させるような動きはしたくないんです。それは社長のためにも。」
電話の向こうで、社長は黙る。
博子は続ける。
「土曜、同伴は調整します。日曜観光は、半日ぐらいならいけるかもです。」
少し笑う。
「ただ、毎回あのレベル期待されたら困りますよ?」
社長も笑う。
「それは分かってる。」
博子は最後に一言添える。
「社長が偏いてるって言うてくれたのは嬉しいです。でも、ちゃんと
余白残しながらいきましょ。」
電話を切ったあと、博子はスマホを置いた。
「……やっかい。でも、悪くない。」
一方、社長はソファに座ったまま、しばらく動けなかった。
電話越しの博子ちゃんは、甘くない。
でも、それがまた刺さる。
「依存させたくない、か。」
自分の熱を、ちゃんと制御してくれる。
それがまた、信頼になる。土曜、決まりかもしれない。
胸が、また少し高鳴った。




