東京メイン社長から抜け駆けの予約連絡。東京で遊んでた金、博子ちゃんにつかいたい
東京の自宅の書斎で、メインの社長はしばらくスマホを握ったまま、画面を眺めていた。
ウイスキーのグラスは半分ほど残っている。
頭の中は、六本木でも銀座でもない。
鴨川の風。蒼空の味。紙コップ。肉じゃが。
そして、博子の横顔。
「……これ、ちょっとやばいな。」
自分でも、そう思う。ガチ恋か、と言われたら違う。
あの子を独占したいとか、彼女にしたいとか、そういうベタな話ではない。
刺さっているのは、“博子”そのものよりも、
博子の座組。博子の設計。博子の気づき。
そこに、ガチ恋している。
しばらく迷ったあと、社長はスマホを開いた。
博子のLINEをタップする。
――今日はありがとうな。
打ち始めたら、意外と指は止まらなかった。
――正直、めちゃくちゃ染みたわ。
――ワクワク止まらんかった。
ここまでは素直な感想。
だが、そこからが本音だった。
――もう一回、銀座とか六本木で遊んでみるわ。
――博子ちゃんの話、ちょっと出してみて、向こうがどう反応するか見たい。
送る前に、一瞬ためらう。
でも、消さない。
――でもな、ひょっとしたらやけど、今まで六本木・銀座に使ってた力、
――全部博子ちゃんに使うかもしれん。
自分で打ちながら、笑ってしまう。
「何言うてんねん俺。」
他の二人は知らん。
でも、自分は完全に偏き始めている。
――あの座組、マジでやばい。
――外で遊んでほしいっていうのもあるけど、
――北新地に足向けようかなと思ってる。
ここで一旦、止まる。
深呼吸。
これは恋文ちゃう。
投資先の選定でもない。
ただの本音。
――土曜、俺が行けそうな日あったら教えてくれへん?
――日曜でもええ。
――3人でワーっとやるのとは別で、
――俺、ちょっとそっち寄りになってるわ。
送信ボタンを押す直前、自分でも驚く。
六本木でも銀座でも、気分で店を決める。
女の子も、その場のノリ。
こんなふうに、一人に“予定を合わせようとする”なんて、いつ以来や。
「俺、執着してるやん。」
彼女を作ろうと思えば、いくらでもできる。
東京沿線でも、都内でも。
でも――
“気づき”をくれる女は、そうそういない。
ロジカルに殴られるのとは違う。
体験で、余白で、じわっと腹に落ちる。
あれはやばい。本気でやばい。
そう思いながら、送信を押した。
既読がつくまで、妙に落ち着かない。
*****
一方その頃。
博子は風呂上がりで、髪をタオルで拭きながらスマホを見た。
通知。メインの社長。
「はやっ。」
さっき別れたばかりやん、と小さく笑う。
何気なく開いた。
最初の数行を読んで、ふっと口元が緩む。
ありがとう、染みた、ワクワク。想定内。
でも、その先を読んだ瞬間、
博子の手が止まった。
――今まで六本木・銀座に使ってた力、全部博子ちゃんに使うかもしれん。
「は?」
声が漏れる。読み返す。もう一度。
――土曜、俺が行けそうな日あったら教えてくれへん?
博子はベッドに腰を下ろした。
「ちょ、ちょっと待って……」
これは、ガチ恋の匂いではない。
もっと厄介。座組に惚れてる。気づきに惚れてる。
だからこそ、ブレない。博子は理解していた。
こういうタイプは、本気で刺さったら、長い。
しかも、金も時間も動かす。嬉しい。
正直、めちゃくちゃ嬉しい。自分の設計がここまで届いた。
でも同時に、警報も鳴る。
「偏きすぎたらあかん。」
チーム戦。
アルカちゃんもさきちゃんもいる。
ここで自分だけに寄せすぎたら、バランスが崩れる。
しかも、“執着”が始まると、期待値も上がる。
毎回あのレベルを求められたら、しんどい。
博子は深呼吸した。
これは、扱いを間違えたらいけない。
ビジネスでも、恋でもない。
“価値”への恋。
一番中毒性があるやつ。
スマホを握りしめながら、博子は少しだけ震えた。
「……やばいの来たな。」
嬉しさと、怖さと、責任。
全部混ざった感情。
それでも、口元は少し上がっていた。
自分の座組が、本当に刺さった証拠。
びっくりしているのに、
どこか誇らしい。
そんな複雑な顔で、博子は返信を考え始めた。




