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鴨川の河原でお酒を飲みながら気づきを言語化して理解する社長。博子がコースを通して伝えたかったこと

河原の風が少しだけ強くなり、紙コップの縁をかすめる。

蒼空の純米大吟醸をもう一度注ぎながら、ヒロコは静かに口を開いた。

「確かに、東京で札束で殴る世界ってありますよね。」

社長は苦笑する。

「あるな。」「見栄の世界や。」

博子は続ける。

「それで仕事が回ることもあると思います。」

「最近も、有名な塾の先生が1,700万円のロマネ・コンティ開けて話題になってましたよね。」

社長が笑う。

「あったな。」

「自分は強いぞって見せる一環かもしれないですけど。」

博子は少しだけ首を傾げる。

「私、あんまり好きじゃないんです。」

社長は興味深そうに見る。

「なんでや?」

「品がないって思っちゃうんです。」

言葉は柔らかいが、芯がある。

「祇園とかで働いてる女の子でも、ああいうのが好きな子はいると思いますけど。」

「でも、あれって結局、自分らに入ってくるバックのお金も1割から1割5分がいいところです。」

「消耗も激しいし。」

社長はうなずく。

博子は続ける。

「それなら、個別で。」

「そんなにお金かけなくても。」

「価値のあることとか。」「気づきとか。」

「そういうものに目を向けてもらった方がいいなって。」

少し間を置く。

「社長も、札束で殴る遊び、多少飽きて来てるから。」

「こっちに来てくれたんやと思います。」

社長は静かに笑う。

「図星やな。」

博子は正直に言う。

「正直、この座組、迷ったんです。」

社長が眉を上げる。

「設計だけで言うと。」

「さきちゃんやアルカちゃんに比べて、明らかに刺さるって、自分でもわかってて。」

「チーム戦やし。」

「実は他にも5、6個案あったんです。」

社長は驚く。

「そんなに?」

「ありました。」「でも。」

ヒロコは蒼空を一口飲む。

「これが最後になったら嫌やなって思って。」

「私の十八番のコースで攻めさせてもらいました。」

社長はしばらく無言で博子を見る。

そして、ゆっくりと口を開く。

「めちゃめちゃ刺さってるで。」

博子は少し照れる。

「ほんまですか。」

「ほんまや。」

社長は真剣な顔になる。

「これが博子ちゃんの本気なんやって、めちゃくちゃわかる。」

「札束で殴るんやなくて。」「設計で殴る。」

「これ、ほんまに沁みる。」

風が二人の間を抜ける。

社長は続ける。

「東京におると、どうしてもロジカル、ロジカルで考える。」

「数字。」「仕組み。」「効率。」

「でもな。」「今日みたいなのって。」

「無駄な動きとか、遊びとか、入ってるやろ?」

博子はうなずく。

「下道じゃなくてサンダーバード乗るとか。」

「河原で酒飲むとか。」「ガイドブックにも載ってへん。」

社長は笑う。

「でも、その“無駄”が余裕なんやな。」「それがないと、人間死ぬ。」

博子は黙って聞く。

社長の声は少し低くなる。

「今まで俺、仕組みで詰めてきた。」

「効率で押してきた。」

「でもな。」「その外側の余白がなかったら。」

「人間関係も。」「チームも。」「いつか壊れる。」

蒼空を飲み干す。

「今日、それが腹に落ちた。」

博子は小さく息を吐く。

社長は苦笑する。

「これ、他の女の子にできてるか言うたら。」

「たぶんできてへんやろな。」

博子は苦笑いする。

「まぁ、それぞれの良さはありますけど。」

「でも。」

社長は博子を見る。

「これは博子ちゃんの武器や。」

「その場その場の知識もそうやけど。」「見識やな。」

「ただ知ってるだけやなくて。」「どう並べるか。」

「どう流すか。」「どう落とすか。」

博子は静かに答える。

「設計、うるさいですけどね。」

社長は笑う。

「いや、設計やけど。」「中身が沁みる。」「そこが違う。」

河原の音。遠くの子どもの声。酒の香り。

社長は最後に言う。

「これ、価値あるで。」「ほんまに。」

博子は静かにうなずく。

「ありがとうございます。」

札束で殴る世界とは違う。静かに。でも確実に。深く。

刺さっていた。

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