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土曜日のチーム戦。個別同伴。とりあえずフグで社長の心をさす。期待されている土日での座組

タクシーの後部座席。博子と社長は並んで座る。

外の景色が流れていく中、まずは柔らかい時間を作る。

「最近どうですか?」

博子が自然に切り出す。

「まあまあやな。」

社長は笑う。

「決算も無事終わったし、今は次の仕込み。」

一通りの業況報告。

数字の話。人事の話。ちょっとしたトラブル。

博子は相槌を打ちながら、ところどころで軽く質問を挟む。

重くならない。でもちゃんと聞いていると伝わる温度。

社長の顔が少しずつ緩む。

やがて話題は、自然と今日の本題へ。

「で。」

社長がニヤッとする。

「今日の座組、どういう感じでやってくれるん?」

博子も笑う。

「めちゃめちゃ興味津々ですね。」

「そらそうやろ。」

「特に明日な。」

「今日より明日が楽しみや。」

他の二人も、同じことを言っていた。

三人とも、日曜の京都にかなりワクワクしている。

「前はみんなで動いてましたから、共有できましたけど。」

博子は少し真面目なトーンになる。

「今回は個別ですから、多分差が出ますよ。」

社長は目を細める。

「差?」

「はい。」

「私が主導してますけど、他の二人には“私が提供したい価値”は伝えてます。」

「でも100%同じにはなりません。」

「社長方の取り方にもよりますし、きっと違ってくると思います。」

社長は腕を組む。

「なるほどな。」

「だから、そこも含めて楽しんでもらえたらなと。」

「比較も一つのスパイスやと思ってます。」

社長は笑う。

「おもろいな。」

「もう設計から始まっとるやん。」

タクシーが止まる。

フグ料理の店。

落ち着いた佇まい。暖簾をくぐると、すっとした空気。

席に案内される。すぐにテッサが運ばれてくる。

大皿いっぱいに、薄く引かれたフグ。

透き通る白。美しい放射状。

「うわ。」

社長が思わず声を漏らす。

「めちゃめちゃ綺麗なテッサやんけ。」

「東京でこれ食おう思たら、なんぼほどすんねん。」

博子は微笑む。

「それはやっぱ大阪に遊びに来た特権ですよ。」

「この価格で、この質は大阪ならではです。」

社長は箸を取る。ポン酢につける。口に運ぶ。

「…うま。」

一瞬、言葉が止まる。

「弾力えぐいな。」

「これやから遠征やめられへん。」

ヒロコは軽く笑う。

「東京の六本木でワンセット十万より、こっちの方が記憶残りますよ。」

社長はうなずく。

「確かにな。」

テッサをつまみながら、ゆっくり会話が流れる。

「今日、まずはこの個別ラウンドやな。」

「はい。」「温度上げときます。」

「頼もしいな。」

やがて、フグちりの鍋が運ばれてくる。

ぐつぐつと静かに煮える出汁。

白い身がふわっと揺れる。

「これもええな。」「贅沢や。」

博子は椀をよそう。社長に差し出す。

「どうぞ。」

湯気の向こうで、社長が少し真顔になる。

「博子ちゃん。」

「はい?」

「今回な。」

「単なるキャバ遠征ちゃうって、三人ともわかってる。」

博子は静かに聞く。

「期待しとる。」

「その期待、ちゃんと受け取ります。」

軽く、でも逃げない。

社長は満足げにうなずく。

「テッサもええけど、明日の京都が本番やな。」

「今日で温めて、明日で刺す。」

博子は目を合わせる。

「ちゃんと刺しますよ。」

フグちりを囲みながら、柔らかい時間が流れる。

個別ラウンド。

静かに、でも確実に温度は上がっていく。

決戦はまだ先。

でも、今この一皿一皿が、その布石になっている。

社長はもう一口、テッサをつまみながら笑う。

「大阪、正解やな。」

博子も微笑む。

「でしょ?」

夜は、これからだ。

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