月曜日、その後のフリーで2人組に指名もらうも相方の子と方針会わずぎくしゃくする
月曜日の北新地は、やはり静かだった。
金曜や土曜に比べれば、人の流れは明らかに細い。
それでも、完全に止まるわけではない。
ぽつり、ぽつりと、客は入ってくる。
淀屋橋界隈のサラリーマン。最近は回数が減った。
経費が使えなくなった、という話をよく聞く。
以前なら週に二、三回来ていたような顔ぶれも、
今は月に一度、顔を出すかどうか。
一方で、「見栄を張りたい社長」も、まだいる。
忙しいふりをして、月曜の静かな夜に、
自分の存在を確かめに来る人たち。
月曜は、そういう“ばらつき”の夜だった。
ひろこはフリーに呼ばれ、二人組のサラリーマンの卓についた。
年は三十代半ばくらい。どちらも、少し疲れた顔をしている。
「たまたま、その辺で知り合ってん」
そう言って、苦笑いする。話を聞くと、同じビルに入っている別会社。
飲み屋で顔を合わせて、意気投合したらしい。
「最近、ほんま息苦しないですか?」片方が、そう切り出した。
「セクハラ、パワハラ、ちょっとした冗談もアウトやし」
「気ぃ遣いすぎて、仕事より神経すり減るわ」
博子は、ただ相づちを打つ。否定しない。正論も言わない。
「大変ですね」「それ、しんどいですね」
それだけで、二人の口は、どんどん軽くなっていく。
「昔はさ、飲み行って愚痴言うて、次の日ケロッとしてたんやけどな」
「今は、飲み行くのも変に気使うやろ?」博子は、少しだけ笑う。
「だから、こういうとこ来るんじゃないですか?」
その一言で、二人は顔を見合わせて、笑った。
「それや」「それやな」空気が、柔らぐ。
しばらくして、一人が言った。「場内、もらってええ?」
迷いのない声だった。「ありがとうございます」
ひろこは、素直に礼を言う。月曜の場内は、正直ありがたい。
話が弾み、少しテンションが上がってきたところで、片方が、ふと口にする。
「ブーブ、開けよか?」一瞬、空気が止まった。
隣に座っていた、もう一人の女の子が、すぐに反応する。
「いいですね!月曜やし、いきましょ!」
声が、少し前のめりだ。博子は、一拍置いてから、やんわり言う。
「うーん、それやったら、延長して、黒霧島の方が嬉しいかも」
場が、噛み合わなくなる。男の一人は、戸惑った顔をした。
「え、そうなん?」「ブーブの方が、派手ちゃうん?」
博子は、正直に話す。「今日は月曜やし、長くお話しできた方が嬉しいなって」
「また来てほしいですし」相方の嬢は、少しムッとした表情を隠さない。
「でも、せっかくの気分やし」言葉の端に、焦りがにじんでいる。
博子には、その理由がわかった。彼女は、次のセットで指名がある。
今夜の成績を、一円でも積みたい。「長い付き合いの方が、結果的に楽ですよ」
博子は、男たちに向けて、穏やかに続ける。「今日だけじゃなくて、
また愚痴りに来てください」男たちは、少し考えた末、いた。
「まあ、それもええか」「黒霧島で、延長しよ」その決断に、
相方の嬢は、はっきりとは納得していない顔だった。
場は、ぎこちないまま、続いた。しばらくして、彼女は席を外した。
次のセットの指名に向かうのだろう。
その背中を見送りながら、博子は、小さく息を吐いた。
――価値観が違う。それだけの話だ。短期で数字を取りたい子。
長期で関係を作りたい自分。どちらが正しい、という話ではない。
ただ、同じ卓にいると、どうしてもズレが生まれる。
男たちは、最後まで穏やかだった。「今日は、なんか楽やったわ」
その言葉で、博子は救われる。月曜は、派手な夜じゃない。
でも、こういう夜の積み重ねが、後から効いてくる。
博子は、次のフリーに呼ばれながら、静かにそう思っていた。




