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金曜日店内にて。清掃会社社長との雑談後、フリーを回りながら軽く流す

店に入ると、金曜日らしいざわつきがあった。

けれど、博子の卓は、どこか落ち着いている。

「とりあえず、黒霧島一本開けましょか。」

博子が言うと、社長は軽く頷く。

「ええな。」

今日は、無理に高いボトルを入れる日じゃない。

姫路の余韻もあるし、さっきの素朴な晩ごはんの流れもある。

一本開けて、二時間。

ダラダラ過ごす。それでいい。

グラスに注ぎながら、博子は言う。

「こうやって時々、外遊びもしてくれるから。」

「この時間の中で、全部完結させなあかんって空気がないのはありがたいです。」

社長はグラスを指で転がしながら笑う。

「ほう。」

「同伴である程度話してるし。」「外で濃い時間過ごしてると。」

「この二時間は、ちょっとゆるくてもええってなりますやん。」

社長は頷く。

「確かに。」

博子は続ける。

「でも、この時間はこの時間で楽しみたいっていう人もいるんで。」

「そこらへんの調整は多少必要ですけどね。」

社長は、即座に首を振る。

「考えすぎや。」「だいたいな。」

グラスを口に運びながら言う。

「外に行きたいなんて言うやつはな。」「基本、俺含めてろくでもないやつや。」

博子が吹き出す。

「ひどい。」

「ほんまや。」

「多少の下心あって言ってるし。」

「その分、時間でちゃんと返してもらってるって自覚もある。」

博子は黙って聞く。

「その辺の義理は、果たす。」

「義理果たさんやつは、次から行かんかったらええだけの話や。」

博子は少し肩の力が抜ける。

「そんなもんですか。」

「そんなもんや。」

社長はきっぱり言う。

「博子が全部背負う必要ない。」

時間はゆるやかに進む。

一時間目は、仕事の愚痴が少し。

清掃の案件がどうだとか、部下がどうだとか。

二時間目は、ほとんど雑談。

山崎のウイスキー工場話。納涼床の話。

「今度はもうちょい近場でええな。」

「京都でも、山崎でも。」無理せんでええ。」

博子は、相槌を打ちながら思う。

(全部完結させなくていい。)

その言葉は、少し救いだった。

二時間が、あっという間に過ぎる。

「今日はこのへんでええやろ。」

社長が立ち上がる。

「ありがとうございます。」

博子は軽く頭を下げる。

同伴一件。ちゃんと形になった。

(これで、ちょっと落ち着く。)

店内を見渡す。フリーの卓がいくつか空いている。

博子はそっと戻る。

「フリー回りますね。」

店長に軽く伝える。頭のどこかで、明日の段取りも回している。

土曜日。会計士の先生が同伴で入れてくれている。

博子はスマホを取り出す。

軽く、柔らかい文面で。

「明日の予定、どうですか?」

重くならないように。確認だけ。

すぐに返事は来ない。でも、それでいい。

フリーの卓に着く。若い会社員風の二人組。

今日は派手に盛り上がる感じではない。

博子は、少しトーンを落とす。

「お疲れさまです。」笑顔を作りながらも、内側は静かだ。

同伴一件入っているという安心。それだけで、気持ちが違う。

(今日は、焦らんでええ。)

フリーはフリーで。軽く。ゆるく。

店の空気を感じながら。時々、スマホを見る。

会計士先生から返信。

「明日、いつもの時間で大丈夫です。」

博子は小さく息を吐く。

(よし。)

これで、土曜日も見えた。卓の中で、会社員が笑う。

博子も笑う。金曜日の夜は、まだ続く。

でも今日は、追い込まれる感じではない。

一本開けて、二時間。義理は果たした。

次は、軽やかに回す番。

ネオンの光の中で、博子は静かに、次の一手を考えていた。

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