金曜日。清掃会社の社長との同伴。頻繁に会う中、心配されながら時間を過ごす。
金曜日。清掃会社の社長との同伴の日。
博子は昼過ぎから、なんとなく穏やかな気持ちで段取りをしていた。
火曜日に姫路へ行った余韻が、まだ少し残っている。
(あれ、楽しかったな。)
今日は遠出はない。でも、その分、日常の中の余白を作ればいい。
同伴の晩御飯はどうするか。派手な店じゃなくていい。
今日は、少し素朴なもので組み立てることにした。
茄子の煮びたし。揚げ出し豆腐。
里芋の煮っ転がしを軽く揚げたやつ。
「今日はこんな感じでどうです?」
と、事前に軽く匂わせておく。
ほどなくして、社長が現れる。
「博子!」
声のトーンが明るい。
「火曜日、めちゃくちゃ楽しかった。」
席に着くなり、そう言った。
「姫路、ああいうのがあるだけでテンション上がるな。」
博子は笑う。
「よかったです。」「たまには、ああいうのも。」
社長が頷く。
「余裕ある日やないと無理やけどな。」「でもな。」
箸を持ちながら言う。
「博子の予定を考えたら。」
「別に山崎のウィスキー工場でもええし。」「京都でもええし。」
「もうちょっとしたら納涼床とかもええかもな。」
博子は笑う。
「どこまで広げるんですか。」「広げとかなあかんやろ。」
社長は真顔で言う。
「種は多い方がええ。」「時々行くのもええし。」
「こうやって毎週来てくれるのも嬉しいです。」
博子が言うと、社長は少し照れたように笑う。
「こうやって来ることでな。」「日々の仕事の嫌なこと、ある程度忘れられる。」
「頭の整理もできる。」
博子は静かに聞く。
「やっぱな。」「こういう町に来て。」
「雑多なところで。」「自分が生きてるって感じんと。」
「仕事のモチベ、わかんねん。」
博子は頷く。
「必要経費ですね。」
社長が笑う。
「せや。」「領収書もちゃんと作ってもらってるし。」
「その辺は何とかなる。」
二人で軽く笑う。
茄子の煮びたしを口に運びながら、社長が聞く。
「最近どうや。」「最近会ったばっかりやけどな。」
博子は苦笑する。
「まあ、そんなに大きな事件はないです。」「ただ。」
少し言葉を選ぶ。
「座組の話、ずっとしてました。」「昨日、店の女の子たちとお茶して。」
「情報共有して。」「団体さんどう回すかとか。」「設計の話とか。」
社長が少し眉をひそめる。
「出勤以外の時間も、結構気ぃ使ってるやろ。」
博子は一瞬、目を逸らす。
「まあ、ちょっとは。」
「博子、休んでるんか?」
社長の声は、少しだけ心配混じりだ。
博子は揚げ出し豆腐を取り分けながら言う。
「休んでますよ。」「こうやって。」
社長が笑う。
「それは俺の金で休んでるだけや。」
「違いますって。」
博子も笑う。
でも、少しだけ考える。
(確かに、気を使う時間は増えてる。)
座組。面で戦う。80点を揃える。余白の共有。
頭の中は、ずっと回っている。
社長は続ける。
「博子はな。」「今、上り坂や。」
「でも、休まんと持たんぞ。」
博子は少しだけ真面目な顔になる。
「わかってます。」
「だから今日は、揚げ物少なめです。」
「そこかい。」
二人で笑う。
店に向かう時間が近づく。
支払いを済ませながら、社長が言う。
「無理すんなよ。」
「はい。」
「種まきは必要やけどな。」
「潰れたら元も子もない。」
博子は小さく頷く。
外に出ると、金曜日の夜の空気。
少しざわついている。
「今日はゆるくいこか。」
社長が言う。
「ゆるくいきましょう。」
博子は歩きながら思う。
(休めてるかどうかは、正直わからん。)
でも。こうやって話しながら、雑多な街を歩く時間。
それもまた、余白なのかもしれない。
店のネオンが見えてくる。
金曜日の夜が、また始まろうとしていた。




