おじいちゃんと店に入る。今日は流しながら全体を俯瞰してみる日。
おじいちゃんと店内に入り、同伴で話した流れのまま、自然と近況報告の2セットになった。
特別な演出もなく、背伸びもなく、ただ静かに会話が積み重なる時間。
今日の博子は、少し違った。
(今日はフリーで回そうかな。)
毎日がイベントみたいになっていた。
東京の社長、姫路、座組、作戦話。
ずっと気が張っていた。
だから今日は、肩の力を抜きたかった。
おじいちゃんの卓が終わったあと、博子はフロアをゆっくり見渡す。
派手な卓もある。団体でワイワイ、ボトルが立ち、笑い声が大きく弾ける卓。
一方で、静かにウイスキーを傾ける二人卓もある。
(私はどっちやろ。)
考えるまでもなく、わかっている。
(ゆっくり飲む卓やな。)
一対一で、会話を積む。
間を作る。余白を作る。ただ、それでも気づく。
個人客が多い。
団体になると、どうしても少し派手寄りになる。
テンポも上がる。声も大きくなる。
でもそれはそれで悪くない。
(要調整やな。)
自分でハンドリングすればいい。
テンポを上げすぎず、でも空気を壊さず。
博子はフリー卓に入りながら、周りを俯瞰する。
(チーム戦、どうするか。)
それを考えるには、こういう日も必要や。
団体卓の女の子が、ボトルの前で笑っている。
別の子は、指名客としっぽり話している。
耳に入る断片的な会話。他の女の子たちの動き。
(みんな、設計してる感じはあんまないな。)
少なくとも、自分みたいにゴリゴリ設計している話は聞こえてこない。
それが正しいのか、間違っているのかはわからない。でも。
(やり方は、たぶん間違ってない。)
結果は出ている。
チャンスも来ている。ただ。
(疲弊度合い、やばい。)
これが正直なところや。毎回フル設計。
移動、店選び、動線、余白、回収。
一回一回は成立する。でも、継続となるとどうや。
ボトルバック。同伴バック。お手当て。
それが十分に乗っているかと言われると、難しい。
(割に合ってるんか?)
ふとそんな考えもよぎる。そして、自分だけの問題ではない。
座組で回すなら、サキちゃんやアルカちゃんも巻き込む。
(あの面倒くささに、耐えられるか。)
時間的余裕。精神的余裕。全員が持っているわけではない。
博子はフリー卓で笑いながらも、頭の片隅で計算している。
(80点の再現性。)
おじいちゃんの言葉がよぎる。
100点を毎回出すんじゃない。80点を揃える。
でも、その80点でも、今の店の平均からしたら高い。
(疲れへん設計、作らなあかん。)
派手卓の横を通る。団体の笑い声が響く。
ああいう卓は、一瞬でお金が動く。自分の卓は、静かに積む。
(どっちが正解でもない。)
ただ、自分は後者や。一日の終わりが近づく。
フリーで入った卓も、悪くない。
肩の力を抜いた分、逆に自然体でいられた。
(こういう日も大事やな。)
ロッカー前で、ふと鏡を見る。少しだけ、目が疲れている。
でも、嫌な疲れではない。考えている疲れ。設計している疲れ。
(継続できるかどうか。)
そこが一番のテーマや。ゴリゴリ設計は武器。
でも、武器は使い続けたら摩耗する。
ボトルバックが増えるわけでもない。
店の仕組みが急に変わるわけでもない。
(やるなら、やり方変えなあかん。)
全員が80点出せる設計。
疲れない動線。余白を共有できる言語。
博子はバッグを肩にかける。
今日一日は、大きな事件はなかった。
でも、静かに考えた。周りを見た。自分を見た。
(焦らんでええ。)
上り坂かもしれない。でも、息切れしたら意味がない。
夜風が少し冷たい。博子はゆっくり歩きながら思う。
(面で戦うなら、まず持久力やな。)
今日の終わりは、派手ではない。
でも確実に、次への布石になっていた。




