姫路の帰りに清掃会社社長とやりとり。博子の価値に周りが気づき始める。別れ際のやりとり
帰りの新幹線。夕方の車内は、行きよりも少し落ち着いた空気が
流れていた。窓の外の景色がゆっくり後ろへ流れていく。二人の間には、
ほどよい疲労と満足感。社長がシートに深くもたれながら言う。
「ここまでちゃんとコース考えてくれて、提案してくれるキャバ嬢、なかなかおらんで。」
博子は少し笑う。
「そんなことないですよ。」
「いや、ほんまや。」
社長は首を振る。
「博子以外おらん。」
少し間を置いて続ける。
「俺はな、こうやって一緒に遊んでくれるの、めちゃくちゃ楽しい。」
博子は窓の外を見ながら、静かに聞く。
「ただな。」
社長が少し顔をしかめる。
「みんな気づき始めてるやろ。」「争奪戦やな。」
博子は苦笑する。
「まあ……ありがたいことに。」
「もやっとはするけどな。」「それはしゃあない。」
博子はやわらかく言う。
「遊びは取り合いちゃいますから。」
社長が笑う。
「余裕やな。」
少し間を置いて、社長が話題を変える。
「姫路はな。」「今回のコースで打ち止めかな。」
博子が首を傾げる。
「打ち止め?」
「うん。」
「珍しさはあったけど、それ以上の深みはなかったかな。」
「姫路は姫路や。」
博子はうなずく。
「確かに。」
「城は強いけど、パターンは限られますね。」
社長が続ける。
「三宮とか、有馬とか。」
「ちょこちょこ場所変えたいな。」
「大阪とか京都は、パターンめちゃ作れるから強いよな。」
「それはあります。」
博子は即答する。
「京都は特に。」「同じエリアでも、切り口変えられます。」
「酒でいくか、建築でいくか、庭でいくか。」
「俯瞰でいくか、生活でいくか。」
社長が感心する。
「設計脳やな。」
博子は笑う。
「岡山とかも。」
「岡山城一回行ったら、ちょっとお腹いっぱいになるかもですね。」
「せやな。」「パターン化する。」
「そう。」
博子は頷く。
「大都会は深掘りできる場所が多い。」「だから設計しやすい。」
社長は腕を組む。
「また色々考えてくれや。」「もちろん。」
ヒロコは言う。
「種があったら、私にも言うてください。」
「ヒントくれたら、料理します。」
社長が笑う。
「任せた。」
少し沈黙が流れる。車内アナウンスが新大阪到着を告げる。
社長が小さく言う。
「ただな。」「予約、バンバン埋まってるんやろ?」
博子は正直に答える。
「ありがたいことに。」「ちょっと先になっちゃうかもしれません。」
「でも、お店でちょっとずつ話進めていきましょう。」
「急がんでええ。」
社長が立ち上がる。
「こうやって積み上げるのがええ。」
新大阪駅。ホームに降りると、いつもの大阪の空気。
少し現実に戻る感じ。改札手前で、社長が封筒を差し出す。
「今日の分や。」
博子は受け取り、軽く頭を下げる。
「ありがとうございます。」
中を確認すると、10万。博子は一瞬考えてから、1万円を抜き出す。
「これ、持っててください。」
社長が目を丸くする。
「なんでや。」
「次の同伴のご飯代にでもしてください。」
「また一緒に設計する時の、材料費です。」
社長が吹き出す。
「これやから博子は好きやねん。」
「全部取らへんとこがな。」
博子は微笑む。
「長く遊びたいんで。」
社長がお札をポケットに戻しながら言う。
「ほんま、ええ時間やった。」「今日も。」
「こちらこそ。」
「またな。」
「はい。」
改札を抜ける人波の中で、社長はご機嫌な足取りで去っていく。
博子は少しだけ立ち止まり、封筒をバッグにしまう。
姫路の一日。城の階段。御膳。ホテルでの振り返り。
新幹線の余韻。そして、10万円と1万円のやり取り。
ただの遊びではない。
設計。信頼。余白。博子は小さく息を吐く。
「次、どう組もうかな。」
大阪の夜が、ゆっくり近づいていた。




