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弁護士先生の同伴と土日の振り返りの続き。気づきを与えるのではなく気づかせる設計

天満の立ち飲みで二杯ほど引っかけてから、二人はタクシーを拾った。

「店までお願いします。」

後部座席に並んで座ると、博子は少しだけ深呼吸する。

さっきまでの焼酎の余韻と、これから仕事モードに入る切り替え。

先生がちらっと横を見る。

「さっきの最強カードの話、続き気になりますね。」

博子は苦笑いする。

「でもですね。」

「私がどんなコースで何をしたか、ペラペラ喋っても、多分その“気づき”は難しいと思うんです。」

先生が首をかしげる。

「そうなんですか?」

「はい。」

「お店入って、着替えてから、ざっくりの座組みはお話しますけど。」

「多分、先生がそれだけ聞いたら、“へえ、そんなコースもあるんだ”で終わると思います。」

先生は少し笑う。

「確かに。」

「京都で酒屋行って、イタリアン行って、鴨川で飲んで、手料理食べて。」

「文章だけ見たら、ふーん、ですね。」

博子は窓の外を見る。

「でも、そこに私が言葉を足していくと。」

「東京の人からしたら、ちょっとした気づきが出てくるみたいです。」

先生は腕を組む。

「博子さんフィルターですね。」

「そうかもしれません。」

博子は少し笑う。

「でも先生は、私と結構飲んでますから。」

「“博子さんやったら、そうするな”で終わっちゃうかもです。」

先生はすぐに否定する。

「それでもいいです。」「設計会議、教えてほしいですよ。」

博子がちらっと見る。

「設計会議?」

「はい。」

「どう考えて、どう並べて、どう削ったのか。」

「そこが知りたい。」

博子は少し間を置く。

「今日の博子さん、タメがありますね。」

先生が笑う。

「あります?」

「あります。」

「言葉を選んでる感じ。」

タクシーが店の前に止まる。

料金を払って降りる。ネオンの明かり。

日常の戦場。博子は先生と一緒に入店してから店の裏に回り着替える。

ドレスに袖を通すと、スイッチが入る。

卓につき、先生を迎える。グラスを出し、軽く乾杯。

先生は氷の入ったグラスをくるくる回しながら、楽しそうにしている。

「で。」

「設計会議。」

博子は少し笑う。

「ほんまに会議みたいに聞きますね。」

「仕事柄です。」

先生は真顔で言う。

「ロジカルで攻めてる分。」

「博子さんの“余白”とか“余裕”の部分。」

「そこが気になるんです。」

博子はグラスを持つ。

「余白って言っても。」「意図して作ってます。」

「でも、“作ってます感”は出したくない。」

先生がうなずく。

「そこなんですよ。」「仮に設計されてたとしても。」

「設計感が見えない。」「それが僕は好きなんです。」

博子は少し驚いた顔をする。

「設計感、見えないですか?」

「見えない。」

先生ははっきり言う。

「ロジカルに並べてる人は、すぐわかる。」

「この人、こういう流れで持っていこうとしてるな、と。」

「でも博子さんは。」

少し考える。

「流れが自然。」

「“あ、次ここ行くんや”って思う前に、もうそこにいる。」

博子は黙って聞く。

「余白って。」「何もしない時間じゃなくて。」

「“詰め込まない勇気”ですよね?」

博子は目を細める。

「そうかもしれません。」

先生は続ける。

「六本木は、詰め込んでくる。」「ドリンク、ボトル、話題。」

「隙がない。」「博子さんは、隙がある。」

博子は笑う。

「隙って言われると、弱そうです。」

「違う。」

先生は真剣だ。

「隙を置いてくれる。」

「考える余地をくれる。」

博子は少しだけ息を吐く。

「鴨川で飲んだときも。」

「別に何もしてないんですよ。」

「でも、社長が勝手に考え出した。」

「東京では味わえへんな、とか。」

先生がうなずく。

「そこです。」「気づきを“与えた”んじゃなくて。」

「気づかせた。」

博子はグラスを回す。

「それが武器やって言われました。」「磨け、と。」

先生は笑う。

「もう答え出てるじゃないですか。」「気づかせる設計。」

博子は首をかしげる。

「でも、それをどう再現するか。」「どう言語化するか。」

先生は少し前のめりになる。

「まずは今日みたいに話すこと。」「抽象で終わらせないこと。」

「具体の導線を、抽象に上げる。」

博子は静かにうなずく。

「京都だけじゃなくて。」「大阪でもできます。」「天満でも。」

先生が笑う。

「立ち飲みでも。」

「はい。」

博子も笑う。

店内のざわめきが遠くなる。

「僕はね。」

先生が言う。

「ロジカルで飯食ってます。」「だからこそ。」

「ロジカルの外にあるものに、価値を感じる。」

博子はその言葉を胸に落とす。

「設計してるのに、設計が見えない。」

先生が最後に言う。

「それ、めちゃくちゃ強いですよ。」

博子は静かにグラスを合わせた。

「乾杯。」

設計会議は、まだ続きそうだった。

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