4月最初の月曜日。週末金曜日複数人で来店約束の税理士先生と打ち合わせを兼ねた同伴
四月最初の月曜日。博子にとっては、少しだけ意味の違う出勤日だった。
夜の前に、税理士先生と「打ち合わせ」を兼ねた同伴が入っている。
場所は、北新地のつるとんたん。高級でもない。安すぎもしない。
知名度があって、説明のいらない店。「ここ選ぶの、ほんま好きやわ」
席に着くなり、税理士先生がそう言った。「博子ちゃん、変に背伸びせえへんよな。
そういうとこがええねん」博子は軽く笑って答える。
「お腹空いてる時に、ちゃんとお腹いっぱいになれる店が好きなだけですよ」
つるとんたんは、味も安定している。特別感はないが、外さない。
こういう場では、それが一番大事だった。うどんが来るまでの間、
最近の流れの話になる。「最初は全然やったんですけど、
少しずつ来てくれる方ができてきて。
続くかなあ、どうかなあ、って感じです」
弱音を混ぜすぎない。でも、順調だとも言い切らない。
税理士先生は、うどんを一口すすりながら頷く。
「それでええねん。水商売って、急に跳ねるより、
“戻ってくる理由”ができる方が強いからな」
この人は、数字も、人の流れも、ちゃんと見ている。
食事をしながら、自然と金曜日の話になる。
「今度の金曜な、一軒飲んでから、二軒目で入りたいねん」
時間は、九時ごろ。三人で。
「博子ちゃんの席に行くつもりやけど、もし仲ええ子とか、
話しやすい子おったら、揃えといてくれる?」
言い方が、上手い。命令じゃない。相談の形だ。
「指名返しがあるかもしれへんし、
そういうのウェルカムな子やったら助かるな」
博子は、頭の中で顔ぶれを思い浮かべる。
誰をつけたら場が荒れないか。誰なら、空気を読めるか。
「大丈夫です。お話ししやすい子、います」
即答しすぎないのがコツだ。“考えた上で”の返事に聞こえる間を残す。
税理士先生は、満足そうにうなずいた。「ほな、今日は一本入れとこか」
そう言って、黒霧島を一本。高くはない。でも、意味は重い。
「これで様子見て、流れ良かったら、もうちょっとおるか考えよ」
博子は、素直に嬉しかった。“次がある前提”で話が進んでいる。
「ありがとうございます。金曜、楽しみにしてます」
それ以上、煽らない。ここで欲張らない。
食事が終わり、そのまま流れで店に向かう。
同伴は、あくまで“前段”。本番は、金曜日だ。
別れ際、博子は一言だけ付け足す。
「また、この前みたいに、落ち着いたとこで美味しいご飯も
行きましょうね」税理士先生は、少し笑って言った。
「それ言われたらなあ。金曜、ちょっと張り切ってまうやろ」
その言葉を聞いて、博子は心の中で、静かに息を整えた。
派手な勝負じゃない。でも、確実に前に進んでいる。
四月は、こういう積み重ねでいい。
そう思いながら、博子は店の扉をくぐった。




