今日時点で博子がなれそうなもの清掃会社社長とブレストしてみる。
二セット目に入って、酒も少し回ってきたころ。
博子は自分から口を開いた。
「社長、さっきの横軸と縦軸の話なんですけど。」
「おう。」
「私が今、なりたいものっていうのは、まだふわっとしてるんですけど。」
社長は腕を組んで、面白そうに聞く。
「とりあえず、キャバクラで働くのは変わらないです。」
「うん。」
「でも次の段に行くには、いくつか選択肢あるなって思ってて。」
「ほう。」
博子は指を折りながら整理する。
「一つは、お客さんと結婚。」
社長が笑う。
「わしにも可能性あるんかい。」
「社長、奥さんいるでしょ。」
二人で笑う。
「ハイクラス層との結婚っていうのは、一つの答えですよね。」
「現実的やな。」
「横軸にスライドするなら、キャバクラのオーナーとか、スナックやるとか。」
「うん。」
「タピオカとかネイルとかはさすがにやらないですけど。」
「今さらな。」
「SNSコンサルとか。私YouTubeやってるんで、それ伸ばして、
自分のブランディングで何かするっていうのも横かなと。」
社長はうなずく。
「横は広がるな。」
「で、縦。」
博子は少し真面目な顔になる。
「社長とのデートもそうですけど、セッティング、場作り。」
「場作りか。」
「接待からの小旅行とか。東京の人が求めてるのは、そういう新しい視点やと思うんです。」
社長は目を細める。
「確かに。」
「それの組み合わせ。」
博子はさらに続ける。
「もう一つは、サロンですね。」
「サロン?」
「ちっちゃいスナックを作って、そこを起点にお客さん同士をつなぐ。」
社長が少し前のめりになる。
「ほう。」
「サークルみたいなもんです。」
博子はグラスをくるくる回す。
「私、やりたいなって思ってるのは、芋焼酎を揃えて。」
「芋焼酎?」
「最近の芋、めちゃくちゃ美味しいし、安いし。」
社長が笑う。
「マニアックやな。」
「そこをベースにして、小箱でやる。」
「小箱。」
「ハイクラス層の社長さん同士、先生同士、座組組んで回す。」
社長はしばらく黙る。
「一番最後のやつが、たぶん一番おもろいな。」
「やっぱり?」
「しかも芋に絞ってるのがええ。」
ヒロコは少し嬉しそうにうなずく。
「会員制にするのか、体験会にするのかはまだ考え中です。」
「高付加価値やな。」
「博子のファンに対して、ちゃんと値段つける。」
社長は感心したように言う。
「スナックって最近流行ってるしな。」
「お悩み相談も兼ねて。」
「60分いくら、とか?」
「そうです。」
社長はグラスを置く。
「若いうちは若さも武器や。」
「はい。」
「それをちゃんと価格に乗せる。」
博子はうなずく。
「一旦はそれでええんちゃうか。」
少し間が空く。
博子は続ける。
「でも私的には、相場がわかった方がいいなって思ってて。」
「相場?」
「宅建とか税理士とか。」
社長は眉を上げる。
「堅いな。」
「若い女性かける専門分野。手堅いと思うんです。」
社長はうなずく。
「確かに強い。」
「でもハードル高いですよね。」
「高いな。」
博子は苦笑する。
「ありがたいことに指名もらってて、まとまった時間取れなくて。」
「うん。」
「今、初級レベルの資格しか持ってなくて。簿記3級、FP3級あたりもちゃんとできてない。」
「そこから上位層はきついな。」
「今のところは難しいです。」
社長は少し優しく言う。
「焦らんでええ。」
博子は小さくうなずく。
「追い追いですかね。」
「今は現場で稼げ。」
博子は笑う。
「ゲームみたいですね。」
「人生はゲームや。」
社長は続ける。
「レベル上げとる最中や。」
博子はグラスを持ち上げる。
「今は小箱のスナック構想が一番ワクワクしてます。」
「そこから横にも縦にも行ける。」
「ハブみたいな存在。」
社長は満足そうにうなずく。
「答えは出さんでええ。」
「でも考え続ける。」
「それで十分や。」
二セット目が終わる頃、博子の中で、もやもやは消えていなかった。
けれど、輪郭は少しだけ見えた。
横軸。縦軸。結婚。芋焼酎サロン。資格。
ネオンの光が揺れる中、博子は思う。
まだ20。でも、もう20。ゲームは、まだ続く。




