博子20才4月。伏線回収。税理士先生と梅田で小籠包ランチ→グランフロント散歩
四月最初の出勤日を前にして、博子――いや、博之は、ひとつの
「改修」を終えようとしていた。夜の立ち回りだけではない。
昼の時間の使い方、客との距離の詰め方、そして「安心感」の出し方。
全部、少しずつ整えていく必要があった。
その一手目が、税理士の先生との昼の約束だった。
場所は、グランフロント大阪。小籠包の店。
蟹と豚の二種類が看板で、2200円の飲茶セットが一番人気。
博之からすれば、関西で一番うまい小籠包だと思っている店だ。
待ち合わせて店に入ると、先生は少し驚いた顔をした。
「博子ちゃん、こんないいところでランチするんやね」
博子は首を振る。「そんなことないです。
前から行ってみたいなって思ってた店があって、
先生と一緒に行けたらいいなって思っただけです」
それ以上、余計な説明はしない。高くもない。
安すぎもしない。“気を遣わせない価格帯”。
小籠包が運ばれてきて、湯気が立ち上る。
箸でそっと持ち上げると、薄い皮の中でスープが揺れる。
「うわ、これ…ええな」先生は素直にそう言った。
その反応だけで、この店を選んだのは正解だとわかる。
食事が始まると、自然と仕事の話になる。
「実はですね、開業届を出して、個人事業主として
申告しようと思ってるんです」
博子がそう言うと、先生は少し目を丸くした。
「キャバ嬢で? それは感心やな。
正直、そこまでちゃんと考えてる子、あんまりおらんで」
「今はまだ全然ですけど、金融関係の勉強も、やろうかなって思ってて。
お客さんと話す幅も広がりますし」
先生は頷きながら、小籠包を口に運ぶ。
「ええ考えやと思うよ。わからんことあったら、何でも聞いたらええ」
その一言で、ひろこの胸の奥が少し緩んだ。
“相談できる相手”がいるというのは、想像以上に心強い。
「それにさ」先生は笑いながら続ける。
「今日みたいに、同伴でもないのに、昼に時間作ってくれて、
しかも気取らん店で飯食えるの、正直めっちゃ楽やで」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
実際、二時間近く、仕事の愚痴や、接待で飲みに行く話、
親父同士の付き合いの面倒くささ。そんな話が途切れず続いた。
食事を終えた後、ひろこが言った。
「せっかくなんで、少し散歩しませんか?」
向かったのは、グラングリーン。新しく整備された緑地には、
高校生が座り込んで話していたり、
ベビーカーを押した母親たちがゆっくり歩いていたりする。
「仕事してると、こういう景色、なかなか見んよな」
先生がそう言う。「大阪駅に、こんな場所できてたんやな」
二人は近くのセブンイレブンでコーヒーを買い、
グラングリーンの中のベンチに腰掛けた。高い金は使っていない。
それなのに、不思議と気持ちはゆったりしている。
「お金使わんでも、こんな気分になれるんやな」
先生が感心したように言う。
「それを見つけてくる博子ちゃん、すごいわ。
なんか、視点が新しい」
その言葉に、博子は内心で静かに頷いた。派手さはいらない。
“居心地”があればいい。
「良かったら、またこういう感じで遊んでください」
「もちろん。今度は店にも行くし、
タイミング合えば、客も連れてくるかもしれんな」
ひろこはすぐに一歩踏み込む。
「もしよかったら、軽く同伴で一度来ていただいて、
人数とか、お好みの女の子とか、私の方で調整しますけど」
先生は笑った。「ほんま、商売上手やな」
それは、嫌味ではなかった。むしろ、楽しそうな声だった。
こうして、昼の二時間は、夜につながる約束へと変わった。
四月。少しずつ、歯車が噛み合い始めている。
博之は、そう実感しながら、
次の出勤に向けて、静かに気持ちを整えていった。




