表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

251/724

弁護士先生にいっぱい話聞いてもらったので博子からデートの提案。京都の町家で隠れて旅行はいかが?

二時間のセットが終わり、店内のざわめきが少し落ち着いた頃。

弁護士先生はジャケットを整え、静かに立ち上がった。

博子はいつものように笑顔で送り出そうとしたが、今日は少しだけ胸の奥が違った。

エントランス前まで歩きながら、博子は口を開く。

「先生、今日はたくさん話聞いていただいて、ありがとうございます。」

先生は柔らかく笑う。

「いえいえ。」

博子は少し言葉を探す。

「なんか、私のほうが時間頂戴したみたいになってしまって。

もちろん嬉しいんですけど、ちょっと心苦しいというか。」

「後味が悪いわけではないけど、というやつですね。」

「そう、それです。」

先生は軽く頷く。

「今日は逆の回でしたね。」

博子は深呼吸をひとつ。

「なので、良かったら今度どっか行きませんか。」

先生が少し目を上げる。

「お手当てもなしでいいです。」

「ほう。」

「できれば、先生と私の“引き出し”を増やしたいんです。」

少し間を置いてから、博子は付け加える。

「エロいのはなしですよ。」

先生は思わず笑う。

「ええ、まあまあ。そんなこと考えてないですけど。」

「ほんまですか?」

「ええ。」

二人で小さく笑う。

先生がぽつりと。

「山崎のウイスキー工場、行きますか?」

博子はすぐに首を振る。

「それは今度行きましょう。先生の山崎、まだ多分セット残ってるでしょう?」

「残ってますね。」

「それが終わった時に、改めて買い出しに行きましょうよ。話するのも兼ねて。」

先生は面白そうに聞いている。

「それ以外で、先生がしたいことあれば言うてください。そのために時間割きます。」

先生は少し考える。

「陶芸とか、香水作りとか、そういうのを想像してました?」

「はい。でも、ちょっと違うのもありかなと思って。」

博子の目が少し輝く。

「京都で街歩きランチ、いかがですか。」

「京都。」

「隠れたところを一緒に散策して、町家風のところでしっぽりランチ。

観光地ど真ん中じゃなくて、ちょっと外れたところ。」

先生は腕を組む。

「隠れ旅行風、ですか。」

「そう。観光っていうより、小さな発見を積み重ねる感じ。

京都って、奥深いじゃないですか。」

ヒロコは続ける。

「大阪は正直、今ネタが出尽くし感あるんです。工場見学とか大阪城回りとかあるけど、

観光地としての奥行きは京都のほうが掘りがいがある。」

先生は頷く。

「確かに。」

「町家風のところで隠れランチ。もしくは、夕方から静かなところで軽く飲むとか。」

「隠れ旅行風のランチ、なかなかいいですね。」

先生の声が少し弾む。

「ハイクラスの人ほど、“わかりにくい価値”を好みます。あからさまな高級よりも、隠れた良さ。」

博子は嬉しそうに笑う。

「やっぱり?」

「ええ。それは的を射てます。」

先生は続ける。

「会合をするにしても、隠れ家的な場所は重宝します。表に出ない価値。」

博子は軽く拳を握る。

「じゃあ、それ行きましょう。」

「行きましょう。」

「私、ちょっと探しときます。町家の雰囲気が良くて、ランチもちゃんとしてて、

でも騒がしくないところ。」

「楽しみですね。」

エントランスの扉が開く。

博子は最後にもう一度言う。

「今日は、ほんまにありがとうございました。」

先生は柔らかく返す。

「今日の博子さんも、悪くなかったですよ。」

「悩んでる姿も?」

「ええ。むしろ安心しました。」

博子は少し照れる。

「じゃあ、京都の隠れ旅行、設計しときますね。」

「期待してます。」

扉が閉まり、先生が見えなくなる。

博子はしばらくその場に立ち、深く息を吐いた。

お手当てもなし。

仕事でもない。

でも価値がある時間。

それは、次の引き出しになる。

博子はスマホを取り出し、メモに打ち込む。

「京都 町家 隠れランチ

 静かな個室昼飲み可駅から徒歩圏内」

まだ答えはない。でも、掘りがいはある。

そして今日の夜は、少しだけ未来が前向きに見えた。

ヒロコは静かに店へ戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ