そうだ、資格を取ろう。お客様との接点つくり。博之の大量の資格歴をなぞりながらとる。
博子には、資格がなかった。
クローゼットを開けると、真っ先に目に入るのは服とバッグ。
数だけなら、そこそこある。ブランド物も混じっているし、状態も悪くない。
「……資格はないけど、物はあるんやな」
そう思いながら、博之はハンガーに掛かった服を一枚ずつ眺めた。
生前の自分なら、スーツと資格証ばかりだった部屋。今は逆だ。
救いなのは、どれも“細古びていない”ことだった。
流行遅れでも、汚れてもいない。最悪の場合、メルカリに出せば金になる。
質屋に持っていっても、当座の生活費くらいは捻出できそうだ。
「命綱としては、十分か」そう割り切る。
ただ、これは最終手段だ。一気に売ってしまえば楽になるが、
それは同時に、“これ以上落ちたら終わり”というラインを越えることでもある。
だから、少しずつ。生活が詰まった時に、一点ずつ。時間を買うために使う。
そんな位置づけで、服とバッグは「資産」として扱うことにした。
一方で、YouTubeやTikTokで雑談をするにあたって、
どうしても引っかかる問題があった。
裏付けがない。生前の博之には、
一級FP、CFPをはじめ、簿記、外務員、その他もろもろ、
“語るための免許”が山ほどあった。
四十二歳のおじさんが金や社会の話をするなら、
それがなければ、ただのうるさいおっさんだ。
だが、今は違う。二十歳のキャバ嬢・博子。
この肩書きで語る以上、「かわいい」だけでは、すぐに飽きられる。
伸びる可能性はある。だが、長くはもたない。
だからこそ、之ははっきりと方針を決めた。
「資格、取り直そう」まずは基本から。
FP3級。簿記3級。証券外務員二種。
このあたりなら、一週間、集中すれば十分いける。
なにせ、全部、生前に一度は通った道だ。
記憶は薄れていても、考え方の癖や、論点の置き方は体に残っている。
キャバ嬢の出勤の合間。昼間の空き時間。
夜、動画を撮り終えた後。時間はいくらでも切り売りできる。
資格を取る目的は、単に肩書きを増やすためではない。
・お客との会話で踏み込める
・不動産、証券、保険の話題で逃げずに済む
・ニュース解説に芯が出る
そして何より――「この子、ちゃんと考えてるな」
そう思わせるためだ。中期目標は、FP2級・宅建
長期では、FP1級、CFP。かつて取ったとはいえ
時間がかかった。過去問回すだけでもしんどい。
ただ、売り上げに関係ないなら優先度は下がるところか。
そこまで行けば、不動産会社の社長とも、
証券や保険の営業とも、対等に話ができる。
キャバクラという場であっても、“聞き役”ではなく、
“会話の相手”になれる。
さらに言えば、これは二十歳の博子のためだけの投資ではない。
三十歳になった時。キャバ嬢としての“ゴールデンタイム”が終わった後。
その時、「資格×発信」が残っていれば、別の形で食っていける。
事業としても成立する。講座でもいい。相談でもいい。配信でもいい。
1級FP・CFPという文字列は、
それだけで一定の信用を呼ぶ。芸能人のサバンナ八木よろしく、
名刺に書いてあるだけで話を聞いてもらえる世界は、
確かに存在する。「今はまだ、
かわいい二十歳でええ」
「でも、三十になった時に、“何もない人”にはなりたくない」
博之は、ノートに日程を書き込んだ。
外務員二種。FP3級。簿記3級。
試験日から逆算して、勉強時間を割り振る。
動画は量。資格は質。どちらか一方では足りない。
両方やるから意味がある。
もちろん、喋りだけでバズる可能性もある。
顔だけで人を集められるかもしれない。
だが、それに全ベットするほど、
博之はもう若くなかった。「保険は、何枚あってもええ」
生前の癖が、ここでも顔を出す。
二十歳の身体に、四十二歳の危機管理。
それは、派手ではないが、
確実に“死ににくい”生き方だった。そう考えながら、
広之――いや、広子は、次に買う参考書のリストを、
スマホに打ち込んだ。
この人生は、まだ、設計できる。
そう確信できた夜だった。




