博之、20才博子としてSNSデビュー。収入の複線化と潜在顧客の掘り起こし
その夜、博之は、博子の小さな部屋で、スマホとノートパソコンを前にしていた。
部屋の明かりは最低限。カーテンの隙間から、北新地のネオンが、ぼんやりと壁に滲んでいる。
やることは決まっていた。YouTubeと、TikTok。
二つのアカウントを、新しく作る。
博之は、生前、YouTubeでそれなりの数字を持っていた。
登録者五千人。総再生回数、七百万回。
決してトップ配信者ではない。だが、「ゼロから積み上げる」ことを
知っている数字だ。会社にバレて、
アカウントをBANされたこともある。
話せる内容が、ニュース解説に限られ、
当たり障りのない言葉だけで回していた時期もある。
それでも、そこまで伸ばした。つまり――やり方は、体が覚えている。
博之は、静かにアカウント名を入力する。
派手な名前はいらない。炎上を狙う必要もない。
まずは、生き残るための道具としてのSNS。
それでいい。「二十歳のキャバ嬢が、淡々とニュース・雑談を喋る」
それだけで、一定数の人間は、必ず立ち止まる。
踊らなくてもいい。胸を強調しなくてもいい。
過剰に色気を売らなくてもいい。生前、ひろゆきは、
八千本近い動画を作ってきた。
当たらない動画。伸びない動画。
誰にも見られない動画。それを、何千本も。
だからわかっている。一本一本に期待しないこと。
数字に一喜一憂しないこと。とにかく、量を出すこと。
まずは、YouTube。サムネイルは作らない。
編集もしない。撮って、喋って、出す。
本編とついでのショート。ご飯のみ。
それでいい。コンビニと同じや。棚に一個しか
並んでないと話にならん。並んでいる数が多ければ、
必ず、手に取る人間が出てくる。
目標は、まず百本。一日、四本から五本。
一週間で、三十本。一か月で、百本超。
「百本出してから、ようやくスタートライン」
これは、生前の経験から、骨の髄まで染みついている感覚だった。
TikTokも同じ。ショート動画を、何本も上げる。
多少、踊りも入れる。だが、主軸は、喋り。
ニュース。世間話。ちょっとした違和感。
「当たれば儲けもん」「当たらなくて当然」
そう割り切れるのは、もう一度“底”を見たからだ。
ひろゆきは、動画を一本アップしながら、
同時に、頭の中で別の計算もしていた。
これは、広告収入のためだけじゃない。
潜在顧客の掘り起こし。
博子と、話してみたい。
博子と、会ってみたい。
博子の考えを、もっと聞きたい。
そう思う人間は、必ず一定数、出てくる。
その中から、店に来る客が生まれるかもしれない。
オフで会う人間が出てくるかもしれない。
コミュニティとして、回せる形になるかもしれない。
別料金。別導線。別の収入源。
キャバクラ一本に、人生を預けるほど、
博之は、もう若くない。(いや、博子は若いのだが)
「口は一つでも、入口は、いくつあってもええ」
それが、今の考えだった。
もちろん、身バレのリスクはある。
顔が広がれば、厄介な客が寄ってくる可能性もある。
でも、何もしなければ、確実に詰む。
だったら、リスクを管理しながら、淡々と進む方を選ぶ。
動画を上げ終えた後、博之は、少しだけ肩を回した。
不思議と、疲労感はない。
むしろ、久しぶりに、
「自分の手で未来を動かしている」
という感覚が、戻ってきていた。
生前、数字を積み上げていた時と、同じ感触。
二十歳の身体。四十二歳の経験。
この組み合わせは、使い方次第で、
かなり厄介な武器になる。
「まぁ、どうせ百本出すまでは、誰も見てへんやろ」
そう呟きながら、博之は、次の動画の録画ボタンを押した。
派手な逆転は、まだ先。だが、収入の芽は、確実に、増え始めていた。
淡々と。粛々と。それが、今の最適解や。
そう確信しながら、博之――いや、博子は、
カメラに向かって、また話し始めた。




