博子のチーム戦がはまる。響おろしていただく。将来の山崎ウイスキー工場デートの種まき
博子は、グラスを持ったまま、少し肩をすくめる。
「大阪はチーム戦や、言うたかて、仲良しこよしってわけでもないですよ」
三人の社長が耳を傾ける。
「それぞれノルマもありますし、チームで売り上げ取らなあかん日もあります。
でも基本は個々です。醤油の貸し借りくらいの距離感ですかね」
「醤油の貸し借り?」
イタリアン社長が笑う。
「はい。べったりじゃない。でも、軽く打ち合わせしたり、情報回したり、
そのくらいのレベル感です」
さきちゃんがうなずく。
「友達同士で店に入ってきたらまた別ですけど、仕事の座組はまた別の話ですしね」
博子は続ける。
「今回この座組組ませてもらったのも、飲み方が分かれたからです。
シャンパンでバチバチやるタイプか、まったり派か」
幹事社長が笑う。
「俺らは完全にまったり派やな」
「そう思ったからです」
アルカちゃんが少し照れたように笑う。
「私はどっちもいけますけどね」
「せやな」
博子が頷く。
「でも今回は、さきちゃんもアルカちゃんも、“まったり派かな”って判断した。
だから組ませてもらいました」
天ぷら社長が感心した顔をする。
「ちゃんと選んどるんやな」
「ある程度売れてる子らやからこそ、暗黙の了解があるんです」
博子は静かに言う。
「お互いちゃんとするやろ、っていう」
幹事社長が低くうなずく。
「大人の世界やな」
場がまた和む。
博子が少し身を乗り出す。
「今回、そんなハズレじゃなかったでしょう?」
三人がほぼ同時に首を振る。
「全然ない」
「むしろ当たり」
「めちゃくちゃええ」
博子は笑う。
「めちゃめちゃ最高!っていうのは、それぞれあるかもしれませんけど、ハズさんですわ」
イタリアン社長が言う。
「それが一番大事やな」
「最低ラインは“次に繋がる”です」
博子の声が少し真剣になる。
「ガチ恋はまた別の話ですけど、少なくとも、こうやって2セット中盤後半で、
和気あいあいできてるってことは、及第点は越えてます」
天ぷら社長が笑う。
「だから、また遊んでくれたら嬉しいです。もちろん明日ありきですけど」
「当たり前やんけ」
三人が笑う。
幹事社長がグラスを置く。
「実はな、ボトル下ろそうかな思てんねん」
一瞬、空気が止まる。
博子はすぐに真顔にならない。
「それは…迷いますね」
「迷う?」
「店に落としてもらうのはもちろんありがたいです。でも正直言うと、
明日お手当でもらう方が嬉しいです」
三人が顔を見合わせる。
「この座組自体は、私ら女側が企画して動いてることやから、そこを見てほしいなって」
イタリアン社長がニヤリとする。
「なるほどな」
博子は続ける。
「ただ、下ろしていただけるなら、響がいいかなと思ってます」
「響?」
「はい。山崎のウイスキー工場の話もしましたし、近くにありますし。
ストーリーで繋がるんです」
天ぷら社長が笑う。
「ストーリーで酒選ぶんかい」
「大事ですよ、そこ」
博子は笑って返す。
「お連れする機会があれば、その時“あの時下ろした響きですね”って
言えるじゃないですか」
幹事社長が腕を組む。
「なるほどな…」
一瞬の沈黙のあと、
「じゃあ響一本、下ろしとこか」
場が一気に湧く。
アルカちゃんが小さく拍手する。
サキちゃんが目を細める。
イタリアン社長が笑う。
「東京の半額やな、これ」
「そうですよ」
博子がさらりと言う。
「山崎のウイスキー工場行ったら、6万のやつが30万で店で出てたりしますからね」
「なんじゃそりゃ!」
天ぷら社長が声を上げる。
「ほんまです」
「それ仕入れやん!」
「ギャンブルですけどね」
幹事社長が笑いながら言う。
「大阪来て、酒で儲ける話まで聞けるとは思わんかったわ」
イタリアン社長が言う。
「六本木で400万信号機開けるより、よっぽど夢あるやん」
場がどっと笑う。
博子は心の中で小さく息を吐く。
(よし、流れはええ)
酒で殴らせない。物語で酔わせる。
響一本が、ただの売り上げではなく、
次の山崎ウイスキー工場に繋がる伏線になる。
三人の社長は、もう完全にその世界観に入っていた。
グラスが重なり、笑い声が弾む。
二セット後半、空気は完全に温まっている。
この座組は、ただの飲み会ではなく、
一つの物語になり始めていた。




