おじいちゃんと店内でまったり。博子の沼を紐解きながら体験型で売れていく博子を面白がるおじいちゃん
ご飯を終えて店に戻ると、黒服がいつものように丁寧に頭を下げた。
「おかえりなさい、博子さん」その一言が、なんとも気持ちええ。
常連のお客が「この店は黒服がええ」と言うのもわかる。女の子の前に空気が整っている。
着替えて卓に着くと、おじいちゃんがにやりとする。
「さっきの続きやな」
「はいはい、設計の話ですか」
「東京の連中はな、札束で殴り合いばっかりや。あれはあれで派手やけど、記憶が薄い」
博子はグラスを整えながら聞く。
「大阪で博子がやってる“体験売り”は、あいつら慣れてへん。新鮮や」
「そんな大層なもんちゃいますよ」
「で、どない設計してるねん」
博子は淡々と話す。
「三人来るから三人で接客します。まず別々に同伴。店で合流して反省会。
次の日また別々にご飯行って、最後は新大阪でお見送りです」
「ほう」
「帰りの新幹線で、山崎と白州の小瓶を渡して。炭酸水その場で買って、
“今日の話、ゆっくりしてくださいね”って」
おじいちゃんは吹き出す。
「それは確実に帰りの新幹線で飲むやろ」
「飲みますよ」
「そら、新幹線の間の反省会が盛り上がってまた来るわ。新幹線代出してでも来る」
博子は少し肩をすくめる。
「六本木や銀座で三、四十万開けて、記憶も曖昧。こっちで同じぐらい使って、
デートまでついて、帰りにハイボール反省会。そら、来る」
「まあ、東京に比べたらそうかもしれませんけど」
博子は一拍置く。
「札幌とか博多とか、他にもあるでしょ。そこでも探してみてくださいねとは
言ってます。依存されたら困るんで」
「お前、ちゃんと逃げ道作っとるな」
「毎回は無理ですから」
おじいちゃんは首を振る。
「よそでそれやってくれる女の子、そうおらんぞ」
「いや、いますよ、きっと」
「東京からの移籍組も多いんや。地方に散る女の子はな、大体やり方同じや。額の違いだけや」
博子は黙る。
「昔の銀座や六本木はな、大金使う男ほど“外”でゆっくり会う文化あった。
愛人関係もあったやろ。今は派手やけど浅い。ワンナイトの派手さや」
グラスの氷が鳴る。
「だから頻度落ちとったんや、ワシも」
「そうなんですか」
「飽きたんや。記憶に残らん飲み方に」
博子は少し視線を落とす。
「未開拓や、お前のやってることは」
「そんな大袈裟な」
「外国人もそうやろ。定番コース飽きて、自分らでSNS見て変なとこ行く」
「まあ、ありますね」
「ディズニーもUSJも飽きた。次の“体験”探しとる」
博子は静かに頷く。
「そこを丁寧に掘るかどうかや。売上もナンバーも、その差で決まる」
「私なんかナンバー入らないでしょう」
「表の売上だけ見たらな」
おじいちゃんはにやりと笑う。
「裏のお手当て足したら、結構いっとるぞ」
博子は一瞬、息を止める。
「まだ少しですよ」
「継続や。派手さやない」
「ナンバーは怖いです」
「なんでや」
「目立ちすぎるのも嫌ですし、お客さん選んでますから」
「そこや」
おじいちゃんは指を立てる。
「選んどるから質がええ」
博子は苦笑する。
「バカスカは無理です」
「飲まれてるやつはええぞ」
「飲まれてないですよ」
「いや、沼ってるのは向こうや」
博子は小さく笑う。
「でも、継続できるようには頑張ります」
「それでええ」
店内はいつもの喧騒。けれど卓の上は静かや。
「なあ博子」
「はい」
「焦るな」
「はい」
「売れ始めて二ヶ月でここまで動いとる。物語やったらまだ序盤や」
博子はくすっと笑う。
グラスを合わせる。二セット目が終わる頃には、空気が丸くなっていた。
札束で殴り合う夜もある。けど、静かに設計する夜もある。
博子は、自分のペースを崩さずにいこうと思った。




