弁護士先生お見送り、フリー卓で相談後不動産会社社長が久々の来店。博子の人気に複雑な気持ち
本日も店内が少し落ち着いた頃、不動産会社の社長がふらりと顔を出した。
久しぶりやな、という空気をまとって、ゆっくりとした足取りで入ってくる。
「お、博子ちゃん、結構人気らしいやん」
開口一番、それやった。
軽く笑いながら言うけど、半分は本音やろうなとヒロコは思う。
「いやいや、そんなことないですよ。たまたまです」
「福島の時も楽しかったしな。あれはあれでええ時間やったわ。
今度また同伴入れるから遊んでくれへん?」
ヒロコは少し間を置いてから、やんわりと返す。
「いや、あいにくなんですけど、最近アフターサービスが大人気でして」
「大人気?」
「はい。ありがたいことに、めちゃめちゃ予定埋まっちゃうんです」
社長はグラスを傾けながら、ふーんと唸る。
「そんなにか」
「たくさん通ってくれてる人とか、大事にしてくれてる人限定でやらせてもろてて。
あと、東京の団体のお客さんが何件か大きいの入ってて、複数で来はるんですよ。
その座組を回す企画とかもあって」
社長の眉が少し上がる。
「座組?」
「はい。三対三とかで、土日使って回す感じです。だから、なかなか新規で
社長さんの店外まで回せる余力がなくて」
しばらく沈黙。そして、ぽつり。
「博子ちゃんもえらい、遠いところ行ってもたな」
その言い方は、責めているわけでもなく、寂しさ半分、誇らしさ半分。
博子は柔らかく笑う。
「いやいや、皆さんのおかげです。埋もれてた種が芽ぇ出して、
ちょっと忙しくさせてもろてるだけです」
社長はゆっくり頷く。
「わかった。無理言うてるのはこっちやな」
グラスの氷がカランと鳴る。
「でもな、時々でええからさ。どういう回し方してんのか、
教えてくれや。不動産も会社一緒や。人の動かし方、場の作り方、あれは商売やから」
ヒロコは少し目を細める。
「情報交換ですか?」
「そう。俺も社長と場を回す時あるしな。博子ちゃんのやり方、参考になると思うわ」
それは、引き止めやなく、距離を保つための提案やった。
「じゃあ、ワンセットだけ、今日はだらだら喋りましょか」
「それでええ」
店内の音楽が少し大きく感じる。
派手さはない。シャンパンも開かない。
けれど、落ち着いた空気がそこにはあった。
仕事の話。最近の地価。再開発。
テナントの入れ替わり。人の流れ。
「やっぱな、場は生き物や」と社長。
「キャバクラも企業一緒やな。人気出たら人変わるし、変わったらまた人離れる」
博子は静かに聞く。
「だから俺はな、急激に上げん方がええ思う。じわじわ上げて、逃げ道残しとく」
「逃げ道?」
「全部埋めたら息できんやろ」
その言葉が、少し刺さる。
博子は最近、埋めている。予定も、座組も、期待も。
社長は笑う。
「まあ、博子ちゃんは賢いから大丈夫やろ。でもな、昔みたいにふらっと
飲める感じも、俺は嫌いやなかったで」
ほんの少し、胸がきゅっとする。
「すいませんね、なんか遠くなったみたいで」
「ええねん。成長や。俺が追いつけばええだけや」
軽い冗談に変える。
「店外ちょっと待っといてくださいね」
「おう。また様子見に来るわ」
ワンセット、特に大きな盛り上がりもなく、静かに時間が流れる。
派手な売上ではない。
けれど、切らずに残した一本の細い糸。
会計を済ませ、社長は立ち上がる。
「また来るわ」
「いつでも」
見送りながら、博子は思う。
ちょっと距離ができたな、と。
昔なら、店外を軽く受けていたかもしれない。
今は、選んでいる。選ばれる側から、選ぶ側に少しずつ移っている。
それは嬉しい。でも同時に、誰かは遠くなる。
「これも致し方ない、か」
小さくつぶやく。
人気は、平等ではない。時間も、体力も、心も有限。
芽を出した種を育てるには、間引きも必要。
グラスを片付けながら、博子は背筋を伸ばす。
遠くなったわけではない。ステージが一段変わっただけ。
そう自分に言い聞かせながら、次の席へと向かった。




