博子20才3月。博子の時の給料と借金を見比べ生き残り策を考える
三月末日。給料の計算をして、改めて現実が見えた。
博子として働いていた頃、出勤は月・水・金。
二十時から二十五時まで。週三、月十二日。
売り上げベースで言えば、時給三千円 × 五時間 × 十二日。十八万円。
そこから、ヘアメイク代。ドレス代。帰りのタクシー。ヒール。
細かい消耗品。雑費を合計すると、六万円。
残るのは、十二万円。家賃は七万円。実質、手元に残るのは五万円。
水道光熱費、通信費、食費。それを考えたら、……五万円。
正直に言って、マジでカツカツや。しかも、借金が三百万円ある。
返済額をどうこうする以前に、生活そのものが成り立たない。
「これ、どうやって生きるんや……」
そんな言葉が、喉の奥まで上がってきた。
三月分の給料は四月末、少しだけマシな予定。
基本の十八万円に、本指名が二回。同伴が少し。森伊蔵が一本。
それを全部足しても、せいぜい二十一万円前後。
そこから、やっぱり雑費は六万円。残るのは、十五万円。二月分よりはマシ。
でも、焼け石に水。家賃七万円を引いたら、
残り八万円。八万円で、生活費と借金をどうにかしろ、
と言われても、無理な話や。「これは……」頭の中で、はっきりと思った。
「構造を変えなあかん」今までは、「なんとかなるやろ」でやってきた。
でも、数字を並べると、なんともならないことが、はっきり分かる。
じゃあ、どうするか。頭の中で、一つずつ、順番に並べていく。
まず一つ目。出勤日数を増やす。
単純やけど、確実。今は週三。これを週四にするだけで、
月に一日分、五時間分、一万五千円が増える。
即効性がある。体力は削れるけど、今は選り好みしてる場合じゃない。
二つ目。同伴の回数を増やす。同伴は、一件あたりの金額は小さい。
でも、「来店理由」を作れる。フリーで来る客より、同伴で来る客の方が、
次に繋がる確率は高い。同伴が増えれば、ワンセット。半セット。延長。
数字が、連なっていく。
三つ目。指名してくれる客を増やす。
これが、一番大事で、一番時間がかかる。
でも、指名が増えなければ、出勤日数を増やしても、
限界がある。フリーだけで稼ぐのは、もう無理やと分かってる。
四つ目。ドリンクやボトルを入れてくれる客を増やす。
これは、最後。無理に煽らない。一発を狙わない。
森伊蔵一本でも、意味がある。
大事なのは、「また来る理由」を残すこと。
こうして並べてみると、順番は、はっきりしている。
一、出勤日数を増やす。
二、同伴を増やす。
三、指名を育てる。
四、ボトルは結果としてついてくる。
逆に、この順番を間違えたら、どこかで必ず潰れる。
ヒロコとして働いていた頃は、この整理ができていなかった。
焦って、煽って、取れなくて、また焦る。
それを繰り返していた。
でも今は、数字を、ちゃんと直視している。
厳しい。正直、かなり厳しい。
でも、「どこを積めば、どう変わるか」は、
見えてきている。「まだ、終わってない」
そう思って、スマホのメモを閉じた。
ここから先は、感情じゃない。設計や。
一段ずつ、積むしかない。ギリギリやけど、
まだ、手は残っている。
博之は、そう自分に言い聞かせながら、
次の出勤日のシフトを、静かに確認していた。




