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219/725

会計士先生とのお別れの時間。封筒を受け取り帰宅。湯船で色々考える

大阪駅に戻る頃には、ほんのり酔いも抜けてきていた。

改札前で足を止める。

「今日はほんまにありがとうございました。」

 先生はそう言って、少し照れくさそうに封筒を差し出す。

「相場がわからなくて……。」

「相場?」

「こういう体験型って、どのくらいが妥当なんか全然わからなくて。」

 博子はその場では中身を見ない。

「お気持ち、嬉しいです。」

 先生はほっとした顔をする。

「ほんまに楽しかったので。」

「私もです。」

 軽く頭を下げる。先生は改札を通る前に振り返る。

「また、芝生の件、お願いしますね。」

「順番待ち守れたらな。」

「守ります。」

 電車のドアが閉まり、先生は手を振る。

 博子はゆっくりと歩き出す。

 少し離れたところで、封筒を開ける。六万円。

 指先が一瞬止まる。

「……六万か。」

 山崎18年の定価と同じ金額。偶然か、意図か。

 博子は小さく笑う。

「相場わからん言うて、ちゃんと考えてるやん。」

 さっきの会話を思い出す。

「でもな、プレミアムあったでしょ。」

 少し意地悪に言ったとき、先生は笑っていた。

「それは店で返させてください。」

「店で?」

「細かく通いますから。」

 また通う約束も、さらっと決まった。

 重くない。でも軽すぎない。

 ちょうどいい距離感。帰宅して、バッグを置く。

 シャワーを浴びて、湯船に浸かる。

 ふわっと力が抜ける。

「六万……。」

 今日の時間を思い返す。

 快速で高槻。山崎までの15分の道。樽の香り。

 18年の沈黙。白州の森。

 清濁合わせて器はでかくなる、の爆笑。

 響を即買いした顔。

 あの時間に、六万円の価値はあったやろか。

「見合った経験、渡せたんかな。」

 身体を湯に沈める。

 キャバ嬢の仕事は、値段がつく。

 でも、体験は値札が見えない。

 札束で殴られるのは嫌やと言った。

 今日の六万は、殴る感じはなかった。

 ちゃんと考えて、差し出されたお金。

 それなら、ええか。

「まだ足りへんかもしれんけど。」

 もっと引き出し増やさなあかんな。

 体験。言葉。知性。甘さ。バランス。

 湯気が天井に広がる。

 今日の18年シリーズの余韻が、まだ舌の奥に残っている気がした。

「順番待ち、か。」

 笑って、目を閉じる。

 静かな夜。体の芯まで温まる。

 六万円という現実と、今日という時間。

 どちらも、ちゃんと受け取って。

 博子は、ゆっくりと湯に身を沈めた。

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