東京イキリ社長をお見送り後、ロッカーでさきちゃん、アルカちゃんと話し合う
営業が終わって、店の灯りが少し落ち着いた頃。
博子は先に上がるアルカちゃんとさきちゃんを呼び止めて、
バックヤードの隅で小さく頭を下げた。
「マジでありがとうな。」
二人がきょとんとする。
「いや、あの社長さ。フリーの子らも萎縮してたやろ。あの流れにするしかなかってん。
想定と違う動きになってたら、ごめんな。」
アルカちゃんがすぐに首を振る。
「いやいや。むしろ仕事一個増えた感じやん。」
「ほんまそれ。」と、さきちゃんも笑う。
「あれ、多分ありやで。」
「あり?」
「うん。あの社長、100万使うとか言うてたけど、六本木とこっちの使い方が
違うって分かったら、結構来るタイプやと思う。」
「今日のあれ、軽い打ち合わせやん。来週土曜の。」
とアルカちゃん。
「確かに。」
「ただな。」と、さきちゃんが少し真顔になる。
「来週の東京の社長たちの方が、腰低いし、好感は持てる。」
「わかる。」博子も頷く。
「部下の人ら、ちょっと横柄やったしな。」
「だから丁寧にしたいのは来週組やな。」
一通り空気を整理したあと、博子は小さく息を吐く。
「価値観変われば、やけどな。“六本木よりこっちの方がええ”ってなってくれたら、
きっかけは増える。」
「うん。」アルカちゃんが腕を組む。
「アフターケア込みの設計で、いけると思う。」
「引き出し作らなあかんけどな。」
さきちゃんが苦笑い。
「でもあの人ら、多分東京飽きてるよな。」
「月1でこの座組組んだら、固定になるかもな。」
その言葉に博子は少し顔を曇らせる。
「毎週土日来られたら、それはちょっとしんどい。
さきちゃんとアルカちゃんにそこまで負担かけるのも嫌やし。」
「でもさ。」アルカちゃんが計算するように言う。
「ちゃんと土日で売り上げ立って、指名と同伴もらえて、日曜もお手当て出るなら――」
「ここだけで店の収入の半分いくで。」
さきちゃんが続ける。
「東京の社長組と、今日のイキリ社長組、両方回ったらえらい金額や。」
「確かに……。」
博子は少し黙る。
「でもそこは追々やな。やってみて、反応見てから。」
「うん、それがええ。」
「前の東京社長さんたちは、多分いける。」
「こっちは様子見やな。」とさきちゃん。
「ガチ恋モードでグイグイ来られたら、ちょっとかなわんし。」
「線引き大事やで。」
「そこは丁寧にやるわ。」
博子はスマホをちらりと見る。
「明日、ウィスキー工場やし。」
「また行くん?」アルカちゃんが笑う。
「今週二回目や。」
「どんだけ山崎ウイスキー工場好きやねん。」
「いや、体験は武器やから。」
「テイスティング飲みすぎて酔うなよ。」とさきちゃん。
「無理せんときやで。」アルカちゃんが続ける。
「体壊したら元も子もない。」
「ほんまそれ。」さきちゃんも頷く。
「今ええ流れやけど、無理したら崩れるで。」
博子は少し照れくさそうに笑う。
「わかってる。蛇口ばっか開けてたらあかんもんな。」
「ちゃんと水も足しときや。」
「休む日も設計に入れとき。」
「うん。」
博子は二人を見て、もう一度小さく頭を下げる。
「ほんまありがとう。今日助かった。」
「お互い様や。」
「来週、ちゃんと打ち合わせしよな。」
「うん。」
更衣室のロッカーが閉まる音が響く。
外に出ると、夜風が少し冷たい。
積み上がってきた流れ。まだ不安は消えない。
けれど一人ではないという感覚が、今日は少しだけ心強かった。
「明日、丁寧にやろ。」
博子は小さく呟いて、夜の街を歩き出した。




