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土曜日。遺品整理の社長との同伴。経験系を売るのがうまいと褒められる

金曜日は、残りワンセットをフリーで回して静かに終わった。

大きな波もなく、でも小さく種を蒔きながら。それで十分や、と自分に言い聞かせる。

土曜日。遺品整理の社長との同伴の日。

 朝はゆっくり。昼もゆっくり。

 頭を空っぽにする時間をちゃんと作る。

 今日は焦らない。さて、どこへ行くか。

 一瞬、焼肉が浮かぶ。でも、すぐに思い出す。

 ――埋め合わせで焼肉行ったやん。あの時は社長にごちそうになった。

 だったら、今日は変えるべきや。

「ここは、おばんざいやな。」

 博子の中で決まる。

 だし巻き卵と揚げ出し豆腐が美味しい店。丁寧な出汁の店。

 派手じゃないけど、ちゃんと仕事してる店。

 探して、予約する。待ち合わせ。

「博子ちゃん、今日は渋いな。」

「一瞬焼肉行こう思ったんですけどね。」

「ほう。」

「埋め合わせで焼肉食べさせてもらったの思い出して、急遽変えました。」

 社長が笑う。

「その辺やで。ちゃんと覚えてんな。」

「忘れませんよ。」

 店に入る。カウンター。静かな照明。出汁の香り。

「埋め合わせ、やっぱ良かったな。」

「私も楽しかったです。」

「せやからな、あれはお返しせなあかん思て、こうやって来させてもろてるんや。」

「ありがとうございます。」

 博子は素直に言う。

「ただな。」

「はい。」

「最近アフターケア増えてるらしいやん。」

「増えてます。」

「パンパンか?」

「めちゃめちゃではないですけど、溢れ気味です。」

 社長はうなずく。

「同伴は?」

「水曜は確定です。」

「おじいちゃんか。」

「はい、完全固定です。」

「それ以外は?」

「ふわっとしてます。」

「でも埋まるんやろ?」

「お願いしたら、なんとか。」

 博子は続ける。

「でもあんまりお願いしすぎると、ふわふわしてる層が離れる可能性あるんで。」

「なるほど。」

「だから今は、向こうからお願いされるの待つ形です。」

 社長が笑う。

「人気嬢の動きやな。」

「いやいや。」

「全部ガチガチに決めてへんのもええ。」

「余白です。」

「じゃあ俺も定期的に来させてもらおうかな。」

「ありがたいです。」

 だし巻き卵が出てくる。ふわっとして、でも芯がある。

 出汁がじゅわっと広がる。

「ええ店やな。」

「ここ、好きなんです。」

「揚げ出しも頼もう。」

 揚げ出し豆腐も丁寧な仕上がり。

 脂っぽくなく、出汁が澄んでいる。

「博子ちゃんはな。」

「はい。」

「経験系売るの上手い。」

「売るって言わんといてください。」

「でも事実や。」

 社長は続ける。

「俺の壁打ちにも付き合ってくれるし。」

「私も勉強なります。」

「でもな、博子ちゃんは今、蛇口全開や。」

 博子は笑う。

「言われました、それ。」

「今は吐き出してる状態。」

「はい。」

「水槽に継ぎ足しせな、いつか枯れる。」

 社長は少し考える。

「でもな。」

「はい。」

「全部出した後に、新しく溢れることもある。」

「……。」

「一回空っぽになって、違う視点が入る。」

「確かに。」

「全部を全部、鵜呑みにせんでええ。」

「はい。」

「美味しいとこ取りでええ。」

 博子は静かに頷く。

「一人の意見を全部取り入れんでもいい。」

「バランスですね。」

「要は、自分の形で継続できること。」

「継続。」

「それが一番難しい。」

 博子は小さく笑う。

「私、器用ですかね。」

「器用や。」

「ほんまですか。」

「不器用な子は、もう崩れてる。」

 言葉が重い。

「博子ちゃんは、ちゃんと考えてる。」

「考えすぎかもしれません。」

「考えすぎるくらいでちょうどええ。」

 気づけば、二人でゆっくり食べながら、かなり話している。

 出汁巻きも、揚げ出しも、最後まで丁寧。

「この店、正解やな。」

「使って良かったです。」

「また来よ。」

「ぜひ。」

 同伴のご飯屋での美味しい時間が終わる。

 店を出ると、夜風が少し心地いい。焦らず、崩さず、でも止まらず。

 今日のだし巻きみたいに、派手じゃなくても芯を残す。

 そんなことを思いながら、二人で店へ向かった。

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