清掃会社社長お見送り後、会計士先生が来店。日曜日のウイスキー工場店外でウッキウキ
清掃会社の社長を店の外までお見送りする。
「どっかの火曜、空けといてくれや。」
「火曜ですか?」
「ちょっとした旅行や。がっつり決めんでもええ。姫路とか岡山やったら、
行きながら決められるやろ。」
「確かに、それくらいなら現実的ですね。」
「半日でええねん。」
社長は軽く手を振る。
「日曜が難しいなら、火曜や。」
「空き見て連絡します。」
「頼むで。」
そう言ってタクシーに乗り込む背中を見送りながら、博子は思う。
積み上げやな。焦らず、でも止まらず。
店に戻ると黒服さんが小声で言う。
「会計士の先生、来てます。」
「あ、はい。」
そちらの卓に向かうと、会計士の先生はもう前のめり気味やった。
「博子さん、待ってましたよ!」
ハイテンション。
「僕ね、もう日曜日のウイスキー工場が楽しみすぎて。」
「そんなにはしゃいでる場合ちゃいますよ。」
「いや、このために僕は頑張ってると言っても過言じゃないです。」
どこかで見た光景やな、と博子は心の中で思う。
「婚活どうしたんですか。」
「やめました。」
「早。」
「婚活女性と婚活するの、マジでしんどいっす。」
また聞いたことある流れや。
「博子さんは面白いんですよ、マジで。」
「いやいや。」
「これきっかけに、どんどん仲良くなりたいです。」
博子は少し姿勢を正す。
「お気持ちは嬉しいです。」
「ほんまですか。」
「でもですね。」
少し声を落とす。
「私のアフターケア、結構人気でして。」
「え?」
「めちゃめちゃ埋まってるわけではないですけど、行きたい人は溢れてる感じです。」
会計士の先生は少し驚きながらも、すぐに納得する。
「そらそうか。」
「え?」
「俺がいいなと思うものやから、他の社長さんや先生もいいなって思うよな。」
「その感覚、正しいです。」
博子は笑う。
「みんな似たような感覚持ってはります。」
「なるほど。」
「だから焦らず、中でも遊んでください。」
「中で?」
「店内で丁寧に関係作りながら。」
「ペース遅いですか?」
「遅くないです。充分ですよ。その分、ちゃんとやります。」
博子は少し本音を混ぜる。
「ありがたいことに、私ずっと不人気状態やったのに、急にこうなって。」
「そうなんですか?」
「正直、不安なんです。」
「不安?」
「これが崩れないように、細々やってかなあかんと思ってて。」
会計士の先生は真面目な顔になる。
「なるほど。」
「だから丁寧に支援してくれる方には、ちゃんとお返ししたい。」
「納得しました。」
「ありがとうございます。」
「じゃあちょこちょこ来ます。」
「嬉しいです。」
「ウイスキー工場行った後、どっかで同伴一つ取らせてもらえません?」
博子はスケジュールを頭の中で整理する。
「水曜はおじいちゃんが確実に入ってます。」
「確定枠。」
「確定枠です。」
「金土は?」
「ふわっとしてます。」
「月曜は?」
「連絡したら入るレベル。」
「じゃあその辺押さえます。」
「お願いします。」
「最悪、これも経費で落ちるんで。」
また経費かい、と思いながら博子は笑う。
「そうやって落としていただけるから、私たちの業界も回るんです。」
「コロナ以降減りましたよね。」
「減りました。経費で動ける人は強いです。」
会計士の先生は頷く。
「ウイスキー工場楽しみやなあ。」
「楽しみですね。」
「僕的にはどっかデートっぽいこともしたい。」
「デート、ですか。」
「うん。」
博子は少し考える。
「新幹線でサクッとどっか行くのも一つですね。」
「いいですね。」
「今ふと思いついたのは、吉本新喜劇一緒に見に行くとか。」
「吉本!」
「劇場で見たことあります?」
「ないです。」
「やったことない経験するのも面白いですよ。」
「旅行と続けがたいですね。」
「そう。体験の積み重ね。」
「博子さん、発想が面白い。」
「売れない時期に色々動いたからです。」
会計士の先生は笑う。
「その引き出し、僕にも分けてください。」
「ちゃんと足していかないと枯れますよ。」
二人で笑う。
気づけば二時間、ベラベラ喋り続けていた。
婚活の愚痴。仕事の話。
ウイスキー工場の段取り。
吉本新喜劇。
「日曜、楽しみです。」
「楽しみですね。」
「僕、ちゃんと来ますから。」
「待ってます。」
ハイテンションのまま、会計士の先生はグラスを空ける。
博子は思う。流れはいい。でも焦らない。
丁寧に、崩さず。日曜のウイスキー工場へ向けて、また一つ種が蒔かれた。




