金曜日は天ぷら屋でしっぽり同伴。うまくいってる時ほど丁寧に。
金曜日の夜。清掃会社の社長と飲む約束の日や。
どこにするか、昼間から少し迷っていた。
天満の立ち飲み屋もええ。気楽やし、距離も縮まる。
でも今日は週末。しっぽりいくなら、天ぷらがええなと思った。
カウンターで、揚げたてを一つずつ出してくれる店。
静かで、でも肩肘張らない。金曜の終わりにちょうどいい温度。
「よし、天ぷらやな。」決めると早い。
ただ、少しだけ思う。偏り、出てるなあ。
誰と行ったか、どの店使ったか、頭の中で整理する。
同伴が増えれば増えるほど、レパートリーの少なさが露呈する。
いろんな人と行ってるがゆえに、被りも出る。この店、あの人と行ったな。
あそこも一回使ったな。でも、仕方ない。
逆に常連になっていくのも悪くない。顔が利くようになれば、それはそれで強い。
そんなことを考えながら、店へ向かう。
社長はすでに外で待っていた。
「一週間終わったって感じするわ。」
「お疲れ様です。」
「平日がっつり動くと、金曜の夜が一番落ち着くな。」
カウンターに並んで座る。
まずは軽く一杯。
揚げたての海老が出てくる。
音も香りも、ええ。
「やっぱり天ぷら、正解やな。」
社長が満足そうに言う。
しっぽり、ゆっくり。金曜らしい飲み方や。
少し落ち着いたところで、社長が切り出す。
「平日どっか行かへん?」
来た。社長は、初めの頃から“平日どこか行きたい派”や。
「実はですね。」
ヒロコは少し申し訳なさそうに言う。
「今週日曜、会計士の先生とウイスキー工場やし、来週も東京の大きい話入ってて。」
「おお。」
「もう個別で入れてしもてるから、身動き取れへんのですよ。」
「忙しいなあ。」
「火曜は若干空きあるんですけど。」
「あるんか。」
「でもそこ、アフターケアで結構埋まる。」
社長が笑う。
「あー、わかるわ。」
「みんなアフターケア好きやねん。」
「そら好きやろ。」「だからその枠も埋まるのはわかる。」
「そうなんです。」
二人で苦笑する。
社長が少し真面目な顔になる。
「どっかの日、空けといてや。」
「それがなあ。」
博子は正直に言う。
「すぐは約束できへん。」
「そうか。」
「積み上げていきながら、長い目で見てください。」
社長はうなずく。
「もしあれやったら、出勤削ってでもやります。」
「そこまでせんでええ。」
即答。
「無理しても意味ない。」
「でもな。」
「ええって。」
社長はグラスを置く。
「火曜とかでもええやん。」
「火曜?」
「俺も仕事調整できる日ある。」
「ほんまですか。」
「姫路とか岡山ぐらいなら、半日で行けるやろ。」
博子は少し目を輝かせる。
「ええやん。」
「昼出て、夕方戻って、夜軽く飲む。」
「それなら現実的。」
「酒蔵でもええし、城でもええ。」
「選択肢増えますね。」
社長は笑う。
「忙しいのはええことやけどな。」
「うん。」
「俺はちゃんと順番待つタイプや。」
「ありがたいです。」
「でも、ゼロにはせんといてな。」
「それはせえへん。」
天ぷらが次々と出てくる。
茄子、キス、穴子。話もゆっくり続く。
「最近、うまくいってるやろ。」
社長がぽつりと言う。
「どうやろ。」
「前より流れええやん。」
「確かに。」
「でも調子乗ったらあかんで。」
「わかってます。」
博子は正直に言う。
「正直、不安は消えないです。」
「それがええ。」
「え?」
「不安あるから丁寧になる。」
社長は淡々と言う。
「余裕できたら雑になる。」
「怖いこと言う。」
「俺、清掃業やからな。」
「どういう意味ですか。」
「見えへんとこが一番大事。」
博子は小さくうなずく。
表に出ている同伴の成功。でも裏の調整、アフター、被り管理。
そこが崩れたら全部崩れる。
「姫路か岡山、具体的に考えとこ。」
「ほんまですか。」
「火曜でええやん。」
「じゃあ、空き見て連絡します。」
「頼むで。」
しっぽり飲みながら、次の種がまた一つ蒔かれる。
焦らず、でも止まらず。
金曜の夜は静かに深まっていった。




