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20/92

清掃会社社長と今日は延長半セットにして残金を次の同伴のお店代に残す。

気がつけば、セットの時間が来ていた。時計を見る前に、空気で分かる。

店のざわめきが一段落して、黒服が視線を送ってくる、あの感じ。

社長は、名残惜しそうにグラスを置いた。「早いな」

そう言って、少しだけ眉を下げる。(ここや)

ここで引き止めたら、“今日で取り切る女”になる。

ここで引いたら、“次も会いたくなる女”になる。

私は、少しだけ笑って言った。「今日は、来てくれただけで十分嬉しいです」

「ボトルまで入れてもらって」これは本音。森伊蔵が入ったこと以上に、

この人が“考えて選んでくれた”ことが嬉しかった。

「こうやって」「ちゃんと関係、続きますね」社長は、うなずいた。

「続くな」その一言で、胸の奥が少し緩む。でも、人は欲が出る生き物や。

社長が、少し間を置いて言った。「もう一セット、いこか」

――来た。正直、いたくなる。この空気、この距離、この静けさ。

続ければ、もっと話せる。でも、続けた先にあるのは、

“今日の満足”であって、“次の約束”じゃない。

私は、首を横に振った。「ありがとうございます」

「でも、今日は半セットで十分です」社長が、少し驚いた顔をする。

「せっかくやのに」そこで、私は理由を置く。

「ご家庭もあるでしょうし」

「今日はもう、十分楽しかったです」

一瞬、空気が止まる。でも、すぐに続けた。「それに」

「残りは、次に一緒に食べに行く店の軍資金にしましょう」

言い切る。未来に、置く。社長は、一瞬ぽかんとして、

それから、声を出して笑った。「そういう考え方、初めてやわ」

私は、少し肩をすくめる。「今日使い切ったら」

「次、会う理由が減っちゃいますから」社長は、深くうなずいた。

「……確かに」そこからの決断は早かった。「じゃあ、半セットな」

黒服を呼ぶ声も、軽い。黒服は、また一瞬だけ驚いた顔をした。

延長を削る判断を、女の子側がするとは思っていなかったんやろう。

私は、内心で思う。(分かってないな)売上は、

“取る”もんやない。“続く形にする”もんや。半セットの時間は、

さっきより、さらに静かに流れた。もう、無理に話題を広げない。

さっき出た話の続きを、少しだけ。「さっき言ってた料理屋」

社長が言う。「次は、いつ行く?」(来た)

「今週は忙しそうでしたよね」「来週なら、平日でも大丈夫です」

日付を、ぼかす。逃げ道を、残す。「じゃあ、来週な」

それだけで十分。半セットが終わる頃、社長は、少し名残惜しそうに立ち上がった。

「今日は、ええ夜やった」私は、深く頭を下げる。

「ありがとうございました」「また、ご連絡しますね」

社長は、振り返って言った。「次は、俺から連絡するわ」

(よし)

今日、・同伴・ワンセット・半セット・森伊蔵

これだけ取れている。でも、それ以上に、

“また来る理由”を残せた。無理をしなかった。

欲張らなかった。引くところで、引いた。

私は、フロアに戻りながら思う。

長く付き合える人は、最初から“静かな選択”をする。

今日の夜は、派手じゃない。でも、確実に、積み上がった。

――これでいい。これがいい。北新地で、

長く生きるやり方や。

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