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目を覚ましたら、知らない女の体だった

博子が目を覚ましたのは、大阪・新地にほど近いマンションの一室だった。

見慣れない天井。薄いカーテン越しの朝の光。頭が重く、意識がはっきりしない。

夢の続きかと思った、その瞬間――視界の端に、人影があった。

42歳。保険会社勤務。人生に絶望して終わったはずの男、博之が、そこに立っていた。

「……は?」声を出そうとして、出なかった。代わりに喉が妙に高く鳴る。

起き上がろうとした拍子に、胸元に違和感が走った。重い。柔らかい。

――でかいぞ。反射的にそう思った自分に、次の瞬間、頭が追いつかなくなる。

腕も細い。肩幅も狭い。首が、ある。鏡なんて見なくても分かる。

これは、自分の体じゃない。ふらつきながら洗面所に向かい、鏡を見た。

そこに映っていたのは、見覚えのない女の子だった。整いすぎていない、

けれど印象に残る顔立ち。派手さよりも、柔らかさが前に出るタイプ。

美人というより、可愛い系。生きていた頃、こんな女の子と話していたら、

間違いなくテンションが上がっていただろう。そんな場違いな感想が、ふっと浮かぶ。

「……俺、か?」声を出すと、やはり女の声だった。

頭の奥がざわつく。記憶が、混ざり始めていた。倒れる直前の北新地。

指名が取れない焦り。ランキングの数字。スタッフの冷たい視線。

それと同時に、別の記憶が重なる。病院の白い壁。資格のテキスト。

伸び悩む配信画面。信用取引の数字が赤く染まった夜。

博子だった記憶と、博之だった記憶。

どちらもまだ輪郭がぼやけていて、はっきりとはつかめない。

ただ一つ分かるのは、どちらも「うまくいっていなかった」という事実だけだった。

ベッドに腰を下ろし、深呼吸をする。混乱しても仕方がない。まずは現状確認だ。

この体の持ち主――博子は、どんな立ち位置で、どんな動きをして、

なぜ倒れるほど追い込まれたのか。仕事場で何が起きていたのか。

何が足りず、何ができていなかったのか。

そしてもう一つ。

このまま、この“落ちぶれキャバ嬢”として生きていくとして、どうするのが一番マシか。

感情ではなく、段取りで考える。勢いではなく、再現性で考える。

それが、四十二歳まで生き残ってきた人間の癖だった。

ヒロユキは、ヒロコの体で、ゆっくりと立ち上がった。

人生は一度終わった。だが、終わったはずの場所から、

なぜかもう一度始まっている。ならばまずは、状況を洗い出す。話はそれからだ。

ここは、再起でも奇跡でもない。

ただの、現状整理から始まる第二の人生だった。

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