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有馬温泉到着。足湯につかり散策してオムライス、食後のコーヒーを飲みながら有馬を満喫

有馬温泉のバス停に着いた瞬間、空気が違った。

少しひんやりしてるのに、どこか甘い匂いが混ざっている。観光地特有の、

湯気とお土産と人のざわめきが溶け合った空気。

「着きましたね。」

先生が妙に嬉しそうに言う。

「テンション上がってますやん。」

「上がりますよ。非日常ですから。」

「修学旅行や言うてましたもんね。」

とりあえずトイレに寄って、軽く身なりを整える。鏡越しに目が合って、

二人で少し照れ笑いする。外に出ると、目の前で炭酸せんべいを焼いている。

丸い生地を薄く伸ばして、パリパリと焼き上げていく様子が面白い。

「あれ、買います?」

「焼きたてはうまそうですね。」

「酒まんじゅうもありますよ。」

「誘惑多いな、有馬。」

そんなことを言いながら、源泉の足湯へとテクテク歩いていく。川沿いの道、

石畳、ちょっとした坂道。観光客が写真を撮り、浴衣姿の人もちらほらいる。

足湯に腰掛けて、靴を脱ぐ。

「失礼します。」

お湯に足を入れた瞬間、ほっと声が漏れる。

「うわ、気持ちいい。」

「これだけで来た価値ありますね。」

湯気がふわっと立ち上る。すぐ横に座っていた老夫婦が、にこにことこちらを見る。

「えらい仲よろしいなあ。ご夫婦ですか?」

先生が一瞬固まる。

「いや、あの……」

私が笑って答える。

「違うんですけど、ちょっとデートに。えへへ。」

先生が慌てて補足する。

「いや、あの、上司と部下で観光でして。」

「そう?不倫旅行か?」

「いやいやいや!」

先生の戸惑いっぷりが面白くて、私は思わずヘラヘラ笑ってしまう。

「まあ、近いかもしれませんね。」

「博子さん!」

老夫婦は楽しそうに笑う。

「仲良さそうで何よりや。若いもんはええなあ。」

若くはないですけど、と思いながら、先生の肩がほんの少しこちらに近づく。

さっきより距離が縮まってる気がして、私は何も言わずに湯をすくって足にかける。

「こういう時間、ええですね。」

「ええですね。」

足湯を出て、ぶらぶらと街並みを歩く。ちょうどお昼時。

「ご飯どうします?」

「ふらっと入るのもええですね。」

目についたのは、座敷のある小さな店。オムライスの写真がやけに美味しそうだった。

「山の中でオムライスってのも、逆に贅沢ちゃいます?」

「コースじゃなくて、ふらっと入るのがええんですよ。」

座敷に上がり、向かい合って座る。

注文したオムライスは、卵をたっぷり使ったふわふわ系。ナイフを入れると、

とろっと半熟が広がる。

「うま。」

「これは普通にうまいですね。」

先生が一口食べて、真顔で言う。

「博子ちゃんと来てるからうまいんかな。」

「いやいやwww、普通に食材がええからですよ。」

「なんやその冷静なツッコミ。」

「のろけすぎたら、次に会った人も比較して私のことがよく見えてしまいますよ。

気ぃつけてください。」

「それ、怖いな。」

二人で笑う。

山間の小さな店で、観光客のざわめきを聞きながら食べるオムライス。何でもないのに、

どこか特別。

「こうやって自由に動けるの、ええですね。」

先生がぽつりと言う。

「自由、ですか?」

「仕事も責任もあるけど、こうやって一日抜けて、山に来て、足湯入って、オムライス食べて。」

「サボりですか?」

「充電です。」

食後に近くのカフェでコーヒーを頼む。木のテーブル、窓から見える山の緑。

「こんだけ自由になれるって、贅沢やな。」

「贅沢ですよ。時間の使い方って、一番高いですから。」

「ほんまやな。」

先生がカップを持ち上げる。

「博子さんといると、時間の質が変わる気がします。」

「またそんな大げさな。」

「ほんまですよ。」

少しだけ真剣な目で言われて、私は視線を外す。

「先生、今日は仕事の話あんまりしてませんね。」

「今日はええんです。今日は“味わう日”やから。」

窓の外で風が揺れる。

有馬の空気は、どこか柔らかい。

「また来ましょうか。」

博子が軽く言うと、先生は迷わず頷く。

「来ましょう。次はウイスキー工場の後にでも。」

「欲張りですね。」

「沼やから。」

「自覚あるんや。」

笑いながら、コーヒーを飲み干す。

今日一日で、何が進んだわけでもない。けれど確実に、距離は少し縮まった。

有馬の山の空気の中で、二人の時間が、ゆっくりと温まっていく。

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