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荒い社長の考察。博子の魅力は引き出しの多さと開け閉めの経験値。指名嬢とフリー嬢の違い

店の奥のテーブルで、荒い社長とゆっくりグラスを傾けながら話していると、

博子はふと気づいた。

「なるほど……社長、私の引き出しと、ほかの店のキャバ嬢さんたちの引き出し、

比べながら見てくれてるんですね。」

社長はにやりと笑う。

「そら比べるやろ。飲み歩いてるんやから。」

「じゃあ、社長にとっての“刺激”とか“驚き”って、どこに来るんですか?」

博子は少し身を乗り出す。

「体験型がどうとか、最近流行りの経営コンサルとか、カウンセリングとか……

そういう頭で整理する系ですか?」

社長は首を振る。

「いや、あれは頭でっかちや。横に偉そうに並べとるけど、実際の現場では

あんまり使い物にならん。」

「なるほどですね。」

「理屈は立派や。でも、飲んでて“おおっ”とはならん。」

博子は静かに頷く。

「じゃあ、同業同士の飲み会とかは?」

「それはそれで大事や。」

社長はグラスを回す。

「横のつながりや。情報交換や。けどな、そこから得られる“新しいもん”って、

正直そんなに多くない。」

「難しいですね。」

「難しいわ。」

少し間が空く。

「体験か……交通整理か……感覚か……」


社長は博子を見て、ふっと笑った。

「やっぱり、博子やな。」

「私だけですか?」

「だから来とるんや。」

二人とも笑う。

ヒロコは少し真面目な顔になる。

「私はですね、いろんな人を連れていくじゃないですか。コンカフェも、

ウィスキー工場も、バラ園も。」

「うん。」

「そのたびに、引き出しを開けたり閉めたりするんです。」

「開け閉め?」

「はい。この人にはこの引き出し、この人にはちょっと違う角度の引き出し、って。」

社長はじっと聞く。

「その開け閉めが、だんだん滑らかになってくるんですよ。」

「ほう。」

「使えば使うほど、出しやすくなる。」

「なるほどな。」

博子は続ける。

「最初はぎこちなかったんです。無理やり引き出してる感じで。でも、

何回もやってるうちに、自然に組み合わせられるようになってきた。」

社長は頷く。

「それやな。」

「え?」

「人も一緒や。」

グラスを置く。

「指名嬢とフリー嬢の違いもそうやし、商売もそうや。」

「……」

「人が集まれば集まるほど、情報が集まる。」

「はい。」

「情報が集まれば、磨かれる。」

博子は息を飲む。

「で、磨かれたやつは、また人を呼ぶ。」

「差、つきますよね。」

「つく。」

社長はきっぱり言う。

「ないやつは、いつまで経ってもない。」

博子は苦笑いする。

「耳が痛いです。」

「博子はある側や。」

「今は、たまたま。」

「たまたまちゃう。」

社長は少し真顔になる。

「売れてない時期が長かった言うてたやろ。」

「はい。」

「その間に石、削っとったんや。」

ヒロコは静かに視線を落とす。

「でも、高い位置を維持するのって難しいですよ。」

「難しい。」

「一回崩れたら、あっという間です。」

社長は頷く。

「高い位置、維持するのはしんどい。」

「ですよね。」

「せやけどな。」

社長は少し前のめりになる。

「売れてるやつと売れてないやつの差は、どんどん広がる。」

「はい。」

「売れてるやつは、より磨かれる。」

「はい。」

「売れてないやつは、刺激も情報も少ない。」

博子は小さく息を吐く。

「怖いですね。」

「怖いけど、現実や。」

しばらく沈黙。

やがて社長が言う。

「せやからな、俺もアンテナは張っとる。」

「アンテナ?」

「新しい視点。新しい掛け合わせ。」

博子は目を細める。

「社長、十分アンテナ高いですよ。」

「まだ足りん。」

「何を足したいんです?」

「驚きや。」

博子は笑う。

「それ、私の担当ですか?」

「せや。」

二人で笑う。

「また、そのアンテナのきっかけになってくれたらええな。」

「私でよければ。」

「よければちゃう。お願いや。」

博子は少しだけ照れる。

「じゃあ、私も考えておきますわ。」

「何を?」

「社長の“まだ開いてない引き出し”。」

社長は声を出して笑う。

「怖いこと言うな。」

「楽しみにしといてください。」

時計を見ると、いい時間になっている。

「今日はこのへんで帰るか。」

「そうですね。」

席を立ちながら、社長がぽつりと言う。

「博子。」

「はい?」

「アンテナ、下げたらあかんぞ。」

「下げません。」

「差は、つく一方やからな。」

博子は小さく頷く。

(開け閉めを、止めない。)

店の外に出ると、夜風が静かに吹いていた。

社長は軽く手を振る。

「またな。」

「またです。」

博子はその背中を見送りながら、心の中で静かに呟く。

(磨かれる側でいたい。止まらない側でいたい。)

そして、今日もまた一つ、引き出しが増えた気がした。

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