清掃会社社長目線。北新地には失望してた中での博子の登場。トンカツ屋、行ってみるか。
正直、今日はどうしようかと少し迷っている。
北新地に行く理由が、最近は減ってきた。
昔は勢いもあったし、金も気にせず使っていた。
だが、年を重ねるにつれて、
「高い金を払って、疲れる場所」に行く意味が、分からなくなってきた。
仕事柄、朝が早い。現場は人が命だ。一人欠けたら、全部がズレる。
クレームは全部、こっちに来る。そんな一日の終わりに、
・シャンパン煽られて
・ドリンクせがまれて
・同伴が当たり前みたいな顔をされる
正直、うんざりしていた。だからあの日、フリーで付いた博子にも、
最初は期待していなかった。どうせ同じやろ、と。でも違った。
まず、ドリンクをねだらない。同伴の話もしてこない。
かといって、壁を作るわけでもない。
「今日はお仕事終わりですか?」「現場、しんどそうですね」
そんな言葉を、軽くもなく、重くもなく、投げてくる。
清掃の仕事なんて、正直、キャバクラではウケが悪い。
地味やし、汚れるし、派手さはない。
それを、「なくてはならない仕事ですよね」
と言われた時、少しだけ、胸の奥が緩んだ。
分かってもらえる、という感覚。それが、想像以上に効いた。
ただ、それでも俺は慎重になっている。
北新地で“いい子”は、たまにいる。
でも、その場だけ、ということも多い。
今日は優しい。今日は煽らない。
でも次に来たら、急にシャンパンの話になる。
それも、何度も見てきた。だから、「同伴どうですか?」
と言われた時も、すぐには決めなかった。
店はどこか。値段はどれくらいか。変に見栄を張らされないか。
そう思っていたら、博子が言った。「トンカツ屋なんですけど」
一瞬、耳を疑った。北新地で、トンカツ。しかも、
「トンカツしか出さない店」「カウンターだけ」「2,500円くらい」
……正直、悪くないと思った。変に気取ってない。
逃げ場がある。高くない。長居もしなくて済む。
なにより、「花を持たせようとしてない店選び」や。
北新地の女の子は、男に“花を持たせる”前に、
自分の売上を立てに来ることが多い。それは仕事やから仕方ない。
でも、今日はそれをされる気分やなかった。
博子は、「無理なら全然大丈夫です」と付け足した。
ここで煽られたら、終わってた。でも、煽らない。
(……どうするかな)正直、今日は卓についてもらっただけでも十分や。
それは本音や。ただ、もし同伴したら。もしこの子が、このまま変わらんかったら。
少しだけ、花を持たせてやってもええかもしれん。
大きな金やない。シャンパンもいらん。ボトルも次でええ。
「ちゃんとした客がつく」それだけで、この子の立場は少し変わる。
北新地は、そういう世界や。俺は、しばらく考えて、スマホを置いた。
「じゃあ、軽く行こか」それで十分や。今日は。
この判断が正しいかどうかは、まだ分からん。
でも、少なくとも今は、“行ってもええ”と思えている。
それだけで、最近の北新地では、かなり珍しい夜やった。
――さて。花を持たせるかどうかは、トンカツ屋に行ってから、決めよう。




