水曜日。おじいちゃんとの同伴を昼に切り替え北浜アフタヌーンティーとバラ園デート
火曜日の晩は、珍しく静かやった。
博子はソファに寝転びながらスマホをいじり、ふぅと息をつく。
今日は誰とも会わへん。整える日や。
そう思いながら、おじいちゃんに一本メールを入れる。
――中之島のバラ園、今ちょうど咲いてるみたいですよ。
明日、晩ご飯じゃなくて、お昼軽く食べてから散歩しませんか?
余裕あれば、川のちっちゃい船も出てますし、乗ってみます?
送信。
少し間を置いて、YouTubeを一本アップする。
登録者はなんやかんやで500人近くまで来ている。
「……読めへんなぁ。」
再生数も波がある。伸びる日もあれば、さっぱりの日もある。
収益化プログラムの案内も来ているけれど、手続きがめんどくさそうで一旦放置。
どうせすぐ大金になるわけちゃう。焦らんでええ。今日は寝る。整える。
スマホを伏せて、博子は早めに布団に入った。
──
水曜日の朝。
メールを開くと、返事が来ている。
――久しぶりに散歩もええな。
早めに寝たし、明日いけるで。
博子はにやりと笑う。
「よし。」
さらに追撃。
――北浜に、創業100年ぐらいの紅茶のレトロカフェあるんです。
大きいポット吊るしてあるとこ。
アフタヌーンティー女子受けええんですよ。
おじいちゃんには合わへんかもやけど、変わり種でどうです?
少しして返信。
――それ面白そうやな。行こか。
決まり。
──
北浜。
朝の空気はまだ柔らかい。
川沿いのビル群の間を風が抜ける。
待ち合わせ場所に立っていると、おじいちゃんがゆっくり歩いてくる。
「わしは朝得意やからな。」
「いや、ドヤ顔せんでください。」
ヨチヨチと言いながらも、意外と足取りはしっかりしている。
ヒロコの隣に自然に並ぶ。
「今日は晩ちゃうんやな。」
「はい。バラは昼の光の方が綺麗ですから。」
「なるほどなぁ。」
川沿いを少し歩いて、レトロな建物に入る。
天井が高く、木の梁が見えている。
店の奥には、大きな銅のポットが吊るされていて、存在感がある。
「なんやこれ、工場みたいやな。」
「紅茶のポットすごいでしょ(笑)」
席に通されると、店内は落ち着いた空気。
スーツ姿のビジネスマンもいれば、女子会らしきグループもいる。
博子はメニューを広げる。
「アフタヌーンティー、二段のにします?」
「量どれぐらいや?」
「そんな多くないです。軽めです。」
「ほなそれで。」
紅茶はダージリンとアールグレイを頼む。
ポットが運ばれてくると、湯気がふわりと立ちのぼる。
「ええ匂いやな。」
「でしょ?」
サンドイッチ、スコーン、小さなケーキ。
上品に並んでいる。
おじいちゃんは慎重にスコーンを割る。
「こういうとこ、若い頃は来たことないな。」
「今から来たらええんです。」
「博子がおらんと無理やろ。」
「そんなことないですよ。」
紅茶を一口。
「うまいな。」
「でしょう?」
少し静かな時間が流れる。
「最近どうや。」
「ぼちぼちです。ありがたいことに忙しくて。」
「体壊すなよ。」
「はい。」
博子は少し笑う。
「今日はバラ園も行きましょ。今ちょうど見頃みたいです。」
「船も乗るか?」
「元気あれば。」
「元気や。」
そう言いながらも、博子の歩幅に合わせて歩く。
窓の外には川が見える。
風が水面を揺らしている。
「こういう時間、ええな。」
「ですね。」
博子はふと、こういう穏やかな時間も大事やなと思う。
派手な同伴でもなく、シャンパンでもなく、
ただ紅茶を飲んで、川を眺める。
「博子は、なんでそんなに引き出し持ってるんや。」
「仕事ですから。」
「いや、楽しんでるやろ。」
少しだけ考えてから、博子は答える。
「……楽しんでます(笑)」
おじいちゃんは満足そうにうなずく。
「ほな、バラ見に行こか。」
「はい。」
二人はゆっくりと席を立ち、北浜の川沿いへ歩き出す。
春の光の中、バラの香りが待っている。




