火曜日、半個室焼肉屋で遺品整理社長との埋め合わせ会食。ゆっくり話せる時間
火曜日。博子は仕事を休みにして、遺品整理の社長と会う約束を入れていた。
「先日はすいませんでした」
待ち合わせてすぐ、博子は頭を下げる。
社長は笑って、いやいやと手を振る。
「今日は予約取ってくれてるみたいやし、ゆっくりいこか」
連れていったのは阪神裏の焼き肉屋。半個室やけど、店の中に小さな川が流れていて、
木の橋までかかっている。水音が静かに響いて、なんとも雰囲気がある。
「めちゃめちゃ高そうやん」
「いやいや、ランチ帯は2,000円から4,000円ぐらいですよ。
私、今日は2,000円の平日セット頼もうとしてますから」
博子はさらっと言う。半個室の奥にはビールサーバーも置いてあって、
セルフで注げる仕組みになっている。
「博子ちゃん、ほんま店知ってるなぁ」
「コスパ重視ですから」
笑いながら席に着く。メニューを頼み、鉄板が温められるまでの少しの静けさ。
博子は、改めて向き直る。
「先日は、指名かぶってしまって……せっかく同伴から一緒に来てくれたのに、
嫌な思いさせてしまってすいませんでした」
社長は首を横に振る。
「ヘルプの子も悪い子やなかったしな。指名かぶりは人気嬢の通る道や。
あれはコントロールできひん部分もある。予約制で全部管理できる子はおるけど、
そんなの一握りやろ」
博子は黙って聞く。
「でもな、博子ちゃんのええところは、シャンパン煽って派手にやるんやなくて、
1個1個丁寧にしてくれるとこや。今日だって、わざわざ仕事休んでこうやって
時間作ってくれてる。それ、誠意やと思うで」
胸の奥が少し熱くなる。
「俺はまだ押したいと思うし、ゆっくり話したい。正直、他の人が博子ちゃん好きになるのもわかる」
「いや、恐縮です……」
鉄板の上で肉が焼け始める。香りが立ち上る。
社長は箸を動かしながら続ける。
「どういうお客さん相手にしてるんかも聞きたいし、俺の仕事の話も聞いてほしい。
自分と違う視線くれる人って、ほんま貴重やねん。
そういう人には、お金払ってでも会いたいと思う」
博子は少し笑う。
「昨日は弁護士先生とコンカフェ同伴しましたよ」
「ほんまかいな」
「メイド風コンカフェでオムライス作ってもらって、ワンセット遊んでから同伴です」
社長が声を出して笑う。
「相変わらず視点ぶっ飛んでるなぁ。普通そこ行かんやろ」
「でも面白いですよ。引き出し増えますし」
博子は、昨日の弁護士との話をかいつまんで話す。
白州を開けかけて、あえて止めて、黒霧島に切り替えたこと。
“ボトルよりセットやお手当に回して”と伝えたこと。
「現実的やなぁ」
社長はしみじみ言う。
「夢見させる商売やのに、ちゃんと数字見てる」
「現実見とかないと、自分が潰れますから」
博子はさらりと言う。
「そういうとこやねん。俺が押してる理由」
社長は肉をひっくり返しながら続ける。
「ただ可愛いとか楽しいだけやない。ちゃんと先読んで動いてる。
シャンパン煽って刹那で終わる子とは違う」
博子は少し目を伏せる。
「押されるのはありがたいです。でも、押すならゆっくりでいいですよ」
「なんでや」
「急ぐと壊れるからです」
川の水音が静かに流れる。
社長はふっと笑った。
「博子ちゃん、ほんま商売人やな」
「お品書き作る仕事ですから」
「俺もな、押すならちゃんと押す。中途半端は嫌いや」
博子はその言葉を受け止めながら、心の中で計算もしている。
押されること。押させること。壊さないこと。
全部バランス。
「でもな」
社長が真面目な顔になる。
「俺が押してるのは、博子ちゃんの動きも含めてや。現実見て、
でも遊び心もあって、その両立。そこに金払う価値感じてる」
博子は静かに頷く。
「それなら、ちゃんと楽しんでください。私も、ちゃんと返しますから」
鉄板の上で最後の肉が焼ける。ランチの90分は、静かに、でも濃く流れていく。
博子は思う。謝ることで終わらせるんじゃない。
謝って、関係を一段上げる。押されるなら、押される理由を磨く。
でも、依存させない。そのバランスが、自分の商売。
川のせせらぎの音を聞きながら、博子は静かに次の一手を考えていた。




