弁護士先生ご帰宅。火曜日お休みで体調整えると同時に遺品整理社長への埋め合わせ
弁護士先生帰宅後の月曜日夜は、結局フリーをいくつか回して終わった。
派手なシャンパンもなく、被りもなく、静かな一日。
それはそれで悪くないけれど、体の芯がじんわり重たい。
更衣室でヒールを脱ぎながら、博子は黒服に声をかけた。
「明日、休み入れていいですか?」
黒服は一瞬だけ目を細めて、すぐ頷いた。
「任せるけど……最近働きすぎやったもんな。」
「やっぱり?」
「同伴も被りも、全部拾ってたやろ。顔に出てたで。」
図星だった。売上は上がっている。指名も増えている。
でも、削られているものも確実にある。
「火曜は整えます。」
「それがええ。壊れたら元も子もない。」
博子は軽く手を振って店を出た。
――火曜日、何をするか。
実はもう決めている。
遺品整理の社長。土曜日、荒い社長と被ったあの瞬間。
いい空気で話していたのに、自分が席を外したことで、少しだけ間が崩れた。
社長は大人だから何も言わない。でも博子は覚えている。
あの一瞬の、静かな引き。
「ちゃんと向き合わなあかん。」
家に帰ってから、一本連絡を入れた。
《明日ちょっとお休みにしてます。もしよかったら、
午後ランチでもどうですか? この前のお詫びも兼ねて。》
すぐに既読がつき、返事が来る。
《お詫び? 早いな(笑) ええで。》
博子は小さく息を吐いた。
「よかった。」
火曜日のプランは、もう頭の中で出来上がっている。
場所は梅田。阪神の裏手、半個室の焼肉屋。
ランチは2000円前後。90分しっかり座れて、うるさすぎず、堅すぎない。
夜の店ではない。昼の光の中で、まっすぐ話せる場所。
「まずは、ちゃんと向き合う。」
メニューは焼肉定食。高くないやつでいい。
軽くビールを頼むかどうかは、社長のテンション次第。
その後、もし時間が許せば。
「コーヒー行きます?」
近くのカフェに移動して、もう少しだけ話す。
長く引っ張らない。でも、雑にならない。
博子はベッドに横になりながら、段取りを頭の中で組み立てる。
・最初に土曜の被りについて軽く触れる
・感謝を伝える
・無理してないかと聞かれたら、素直に整える話をする
・仕事の相談は向こうが振ってきたら受ける
謝罪は短く。関係は長く。
「重たくせんこと。」
自分に言い聞かせる。夜の店は、テンションで動く。
昼の関係は、温度で動く。
博子は布団の中でスマホを見ながら、改めてスケジュールを整理する。
水曜日はおじいちゃん。
金曜日はセソ会社の社長。
土曜日は未定。
火曜日は、完全にオフ。
ランチだけ。
「整える日。」
最近は売上も上がってきた。同伴も増えた。
YouTubeもじわじわ伸びている。
でも、積み上げるほど、壊れるリスクも増える。
だからこそ。「壊さず積み上げる。」
夜の世界でそれをやるのは、簡単じゃない。
でも博子は、そこを狙っている。
遺品整理の社長とのランチは、
ただの食事ではない。
土曜の空気を修復すること。
昼の自分を見せること。
そして――
「夜だけの女やないって、思ってもらうこと。」
夜職。コンカフェもキャバも行く女。
でも、昼に会っても違和感のない人。
それを積み上げる。
博子はアラームをゆるめにセットして、目を閉じた。
火曜日は、ヒールを履かない日。
けれど関係を整える、大事な一手。
売上ではなく、温度を整える日。
「よし。」
明日は梅田で小籠包じゃなく、半個室の焼肉定食。
焼肉定食と、謝罪と、コーヒー。
それで十分だ。
火曜日は、静かに動く。




