弁護士先生、婚活女性と遊ぶの嫌やと。博子との時間が楽しくて3セット目の延長いれる
2セット目の途中で、先生がぽつりとこぼした。
「正直な、婚活の女性と遊ぶ気にならんのや。」
博子はグラスを置き、少しだけ顔を傾ける。
「またその話ですか。」
「受け身やし、専業主婦志望やし、最初から金の話が透けて見える。
かといってバリキャリはバリキャリで、仕事の延長みたいになってしんどい。」
博子は吹き出す。
「会計士さんと全く同じこと言うてますよ。」
「ほんまかいな。」
「既視感すごいです。」
先生も苦笑いする。
「俺の周り、みんな同じこと言うてんのかな。」
「そら、条件で選び合う市場に出たら、そうなりますよ。」
博子は静かに続ける。
「子どもが絶対欲しいとか、家族像が明確にあるなら話は別ですけど。そうじゃないなら、
財産半分リスク背負ってまで無理せんでもええんちゃいます?」
先生が目を細める。
「極端やな。」
「現実的です。」
博子はさらっと言う。
「婚活費用も時間も精神も削られる。だったら、その分を“楽しい時間”に
使うのもコスパええですよ。」
先生が笑う。
「コスパ言い出したら身も蓋もないやろ。」
「いや、弁護士先生が一番コスパ考えるタイプやと思いますけど。」
「否定できへん。」
博子は少し声を落とす。
「遊びか、仕事の延長か。その方がしっくりくる人もいますよ。」
「どういうことや?」
「条件で選ぶより、目的がはっきりしてる関係の方が楽ってことです。」
先生はしばらく黙る。
「……確かにな。」
「婚活は“正解探し”になりますからね。私と遊ぶのは“正解いらん遊び”です。」
「危険な言い方やな。」
「でも本音でしょ?」
先生はグラスを回す。
「博子さんは、ほんまに割り切っとるな。」
「割り切ってるというか、線を引いてるだけです。」
少しだけ視線を外し、また戻す。
「その線を守らんと、仕事も崩れます。」
先生はゆっくり頷く。
「香水作りとか、陶芸とか、ほんまに行く?」
急にテンションが上がる。
博子はニヤリとする。
「別料金でよければ。」
「出すわ。」
即答。
「はや。」
「その代わりちゃんとプロデュースしてくれよ。」
「そこはお品書き通りに。」
先生が笑う。
「他にもあるんか?」
「軽めやったら、手品レストランとか。」
「なにそれ。」
「目の前でマジックしてくれるんです。料理もちゃんとしてて、会話のきっかけになる。」
先生の目が輝く。
「それ面白そうやん。」
「でしょ?婚活デートにも使えますよ。」
「今、完全にコンサルやん。」
「相談料いただきます。」
ふたりで笑う。
先生のテンションが目に見えて上がっていく。
「博子さんとおると、なんか脳みそ回るわ。」
「それはよかった。」
博子は内心、計算する。
(これは3セット目いきそうやな。)
ボトルの残量も視界に入る。
まだ半分以上あるが、流れは悪くない。
先生はグラスを持ち上げる。
「ほんまにさ、こういう話できる人、外におらん。」
「いますよ。ただ探してないだけです。」
「いや、探し方わからん。」
「だから練習です。」
博子は静かに言う。
「いきなり結婚相手探すから重たい。まずは遊びの練習。」
「遊びの練習か。」
「今日みたいに。」
先生は深く息を吐く。
「婚活女性と遊ぶより、こっちの方が自然やわ。」
「それは“評価される側”やからです。」
「どういう意味や?」
「婚活は査定。ここは体験。」
先生は少し黙る。
「……それ、刺さるわ。」
博子は笑う。
「弁護士先生、刺さるの好きでしょ。」
「嫌いやない。」
ふたりでグラスを合わせる。
先生が黒服に目配せする。
「もう1セットいこか。」
ヒロコは心の中で小さくガッツポーズをする。
(きたな。)
「無理せんでくださいよ?」
「無理ちゃう。楽しいから。」
その言葉に、博子は少しだけ本気の笑顔を返す。
3セット目の気配が、静かに、しかし確実に店内に流れ始めていた。




