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弁護士先生との店内でのやり取り。遊びの引き出し、先生も作っていけますよと博子

「先生、戻ってきました。」着替えを終えてフロアに戻ると、

弁護士の先生はグラスをゆっくり回しながら待っていた。さっきまでメイドコンカフェで

オムライスとたこ焼きを食べていた人とは思えない、落ち着いた顔つきである。

「おかえり。やっぱりな、こっちの博子さんも好きやな。」

「なんでもかんでも好きって言うてません?」

博子が笑いながら隣に座ると、先生も苦笑いする。

「いや、ほんまに。さっきのガチャガチャした空間もよかったけど、

こういう余白のある感じも落ち着く。」

「振り幅がある方が面白いでしょ?」

グラスに酒を注ぎながら博子は言う。

「女性と遊ぶにしても、男性同士で飲むにしても、引き出しがあった方が絶対おもろいですよ。」

先生はうなずきながらも、少し困った顔をする。

「そうは言ってもな……俺はほんま、勉強ばっかりしてきたから。その辺の感覚が弱いんや。」

「それ、よく聞きます。」

博子は指でテーブルをトントンと叩きながら続ける。

「でもね、それ自分で探していくもんですよ。試行錯誤して、自分に合うものを見つける。

それって資格試験と一緒ちゃいます?」

「一緒?」

「覚えやすい方法とか、ロジカルに整理するとか、過去問の回し方とか。

人それぞれやり方あるでしょ?」

先生は「ああ…」と小さく声を漏らす。

「遊びも一緒ですよ。いきなり正解探そうとするからしんどいんです。まずは試す。」

「試す、か。」

「香水体験とか、陶芸体験とか、私は引き出し持ってますけど、それが正解ちゃいます。

先生に合う引き出しは、また別にあるかもしれません。」

博子は少し身を乗り出す。

「ジオラマカフェとか行ったことあります?」

「ジオラマ?」

「電車の模型がブワーって走ってるカフェ。あれ、好きな人はめちゃくちゃ刺さりますよ。」

先生が目を丸くする。

「そんな店あるん?」

「探せばあります。ボードゲームカフェとか、落語バーとか、ビール工場見学とか。

世の中、思ってるより遊び場だらけです。」

先生はグラスを置き、深く息を吐く。

「その引き出し、普通の女の子持ってへんで。」

「いやいや。」

ヒロコは首を振る。

「普通の女の子も持ってる人は持ってます。ただ、発信してないだけ。」

「でも博子さんは、整理されてるやん。」

「それは仕事やから。」

にっこり笑う。

「私はキャバ嬢ですから。お昼のメニュー表をたくさん作るのが仕事。

お品書きが少なかったら、選んでもらえへん。」

先生が笑う。

「料理人みたいやな。」

「調理もしますしね。」

「そこがややこしいねん。」

ふたりで笑う。

「でもな」と先生が続ける。

「今日のコンカフェもそうやけど、俺ひとりやったら絶対行ってへん。」

「最初はそんなもんです。」

「なんか…人生、損してた気分やわ。」

「今から取り戻せます。」

博子は真面目な目で言う。

「勉強に費やした時間は、もう十分元取ってるでしょ?これからは遊びの試験です。」

「合格基準は?」

「楽しめたら合格。」

「甘いな。」

「実技試験ですから。」

笑い声がテーブルに落ちる。

周囲ではシャンパンのコルクが抜ける音がするが、ふたりの席は静かだ。派手な勝負ではなく、

会話のキャッチボールで時間が流れていく。

「博子さんはさ。」

先生が少し真面目な声になる。

「なんでそこまで引き出し作れるん?」

博子は少しだけ考える。

「売れへん時期が長かったからです。」

「……」

「誰も来てくれへんとき、何が足りんのやろって考え続けた結果です。

外見じゃ埋まらん部分を、何で埋めるかって。」

先生は静かにうなずく。

「だから、引き出しは才能やないです。積み上げ。」

「勉強と一緒か。」

「そうです。」

先生はグラスを持ち上げる。

「よし。俺も引き出し増やすわ。」

「報告義務ありますよ。」

「厳しいな。」

「検定試験やと思ってください。」

そんなやり取りをしているうちに、1セット目があっという間に終わる。

先生は時計を見て言う。

「時間早すぎるやろ。」

「集中してるからです。」

博子はにやりと笑う。

「まだ次の引き出し、出してへんのに。」

先生は肩をすくめる。

「今日は何段目まであるんや?」

「それは追加セット次第です。」

ふたりでまた笑い、グラスを合わせる。

1セット目は、静かに、しかし確実に、関係を一段深めながら過ぎていった。

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